日本ナザレン教団・花園キリスト教会(京都市右京区)に併設された、淡水魚を飼育する「花園教会水族館」が昨年11月、「国連生物多様性の10年」日本委員会によって「2018年生物多様性アクション大賞」入賞に選ばれた。
国連が提唱する持続可能な開発目標「SDGs(Sustainable Development Goals)」を広めることにつながると、その活動が評価されたのだ。さらに今月、同水族館の公式キャラクター「パールちゃん」も、国連企画の生物多様性キャラクター応援団に任命された。
教会と水族館というユニークな取り合わせを思いついたのは、同教会牧師を2010年から務める篠澤俊一郎さん(38)。12年冬、教会を訪ねてきた少年が、玄関に趣味で置いていた水槽を見て、「生きている魚を見たことがない」とつぶやいたという。篠澤さんは高校卒業まで島根や鹿児島など豊かな自然の中で暮らし、川で泳ぐ魚を見慣れていたので、その少年のひとことにショックを受けた。それ以来、「子どもたちがもっと自然の生き物と触れ合ってほしい」との思いから、アマゾンの魚など、珍しい魚を飼い始めるようになった。
また、ペットショップで商品価値を失ったり、家庭や個人で飼育できなくなったりして、頼まれて引き取った生き物も多い。特に東日本大震災の時に停電になり、エア・ポンプやフィルターなどが止まったことがきっかけで、魚を手放す人も多くいた。そのようにして徐々に種類が豊富になり、水槽の数も増えていった。
当初は、教会玄関に水槽を置いていたが、地域の子どもたちが友だちと一緒に目を輝かせながら水槽を覗き込むのを見て、篠澤さんは「ここを小さな水族館にしては」と思い立ち、隣接する集会所に水槽を移して、14年12月、「花園教会水族館」をオープンした。「子どもの視野を広げるのに、お金を払わないといけないなんて」と入場料は無料に。16年10月、教会1階にあるガレージを改装し、リニューアル・オープンした。
水族館の噂は口コミで広がり、来館者は児童から淡水魚マニアまで幅広く、昨年の来館者は3000人を超えた。エンゼルフィッシュやアロワナなど、淡水魚を中心におよそ180種類、500匹以上を42個の水槽で展示しており、その数は関西随一。17年には、環境省・農林水産省より水族館認定も受け、北アメリカ大陸最大の淡水魚であるアリゲーターガーやカミツキガメなど、研究や展示などの目的以外の飼育が禁じられている特定外来生物も飼育している。
「生き物に優しくなれば、人にも優しくなれる」というのが篠澤さんの考え。「ごく小さな事に忠実な者は、大きな事にも忠実である」(ルカ16:10)という聖句を引用しながら次のように話す。
「小さいものを愛(いと)おしむ心が、隣人への優しさを生みます。また、神様が作られたものにはすべてに意味があることを、生物保護の観点も含めて知ってほしい。
水族館では外来種も多く飼育していますが、日本でそれらは悪いものとされることが多いようです。しかし、それでは考えが止まってしまう。どうして日本の環境で悪影響を与えるのかをまず考えることから始めてほしい。この水族館を通して、外見やイメージでは見過ごされがちな命の神秘を子どもたちに伝えていきたいと思っています」
水族館は、見るだけでなく、エサやりをしたり、トカゲやハリネズミ、ゾウカメを触ったりして楽しむ体験型施設になっている。生き物クイズを通して、その生態についても学ぶことができる。クイズはポイント形式で、ポイントカードを集めると景品と交換してもらえる。この景品は、SNSなどで寄付を募って送られてきたものだ。先日は、横浜から来た人が90センチのぬいぐるみを持ってきてくれたという。まさに善意の循環で成り立っている水族館だ。「こういうことを子どもたちが見聞きすることで、寄付の文化が発展することも期待しています」と篠澤さんは言う。
牧師になる前から国際支援の活動に携わっていた篠澤さんは、海外の教会が、その貧しい地域の中で「何が足りていて、何が足らないか」を共に考え、寄り添う姿を多く目にしてきた。「この水族館は、遊ぶ場のない子どもたちに寄り添う場所。そして教会は、地域のニーズを一緒に考えていく場所です」と話す。
「海外の教会の中には、いま国連が課題としている『SDGs』のことを念頭に置きながら活動している教会が多くあることを知りました。世界の問題を、人ごとではなく自分のこととして活動している。そういう意味で今回、生物多様性アクション大賞に入賞したことで、子どもたちの『世界を見る視野』を広げてあげるのが教会の使命だと、より強く感じるようになりました。このことを水族館の活動を通して実現できれば」
現在、花園教会水族館ではボランティアを募集している。専門知識がなくても、生き物が好きな人なら歓迎とのこと。詳細は花園キリスト教会(電話:075・812・1177、ファックス:075・812・1418、メール:syukyokaikaku@gmail.com)まで。