季刊「Ministry(ミニストリー)」(キリスト新聞社)の人気シリーズ「ハタから見たキリスト教」が1冊にまとめられた。信仰者ではないが、どこかでキリスト教と接点を持つ有名人へのインタビューや対談集だ。
作家、評論家、女優、アニメ監督、漫画家、哲学者ら、ジャンルを超えた錚々(そうそう)たる著名人が「これまでの教会」と「これからの教会」を論じている。
奥田知志×上田紀行、加賀乙彦、池澤夏樹、阿刀田高×大塚野百合、髙橋哲哉、辛淑玉、山本弘、安彦良和、里中満智子、アグネス・チャン×酒井美紀、塚本晋也、宮台真司×晴佐久昌英、内田樹×釈徹宗
編著者は、キリスト新聞社代表取締役で「Ministry」編集長の松谷信司(まつたに・しんじ)氏。1976年、福島県生まれ。厳格なクリスチャンの両親のもとで育つ。埼玉大学教育学部卒業後、テレビ報道に携わる。ミッション系小学校の教員を経て、2006年にキリスト新聞社に入社。週刊「キリスト新聞」の記者としてさまざまな教派・教団の現場を取材してきた。2009年に「Ministry」を創刊して以来、編集長。著書に『キリスト教のリアル』(ポプラ社)、『若者とキリスト教』(共著、キリスト新聞社)がある。
松谷氏は序文「ハタから拓(ひら)く『宗教改革2.0』」でこう語る。
「(『Ministry』)創刊当初、おぼろげに抱いていた手応えは、『信じるつもりはないが知りたい』人々(信者を『ガチ勢』とするなら、いわば『にわかファン』)の存在を知るようになって、半ば確信に変わっていった。内輪の力だけでは変われない。『ハタから』の視点こそが必要だと」
そう問題提起するとおり、クリスチャンだけが使うキリスト教用語は本書にはない。
まずトップに、奥田知志(ともし)氏(日本バプテスト連盟・東八幡キリスト教会)と上田紀行氏(東京工業大学教授)の対談がある。仏教に造詣(ぞうけい)の深い上田氏と、社会活動にも活躍する奥田氏の会話からは、キリスト教界と仏教界の課題が浮き彫りになる。
メディアで歯に衣着せぬ物言いが人気の辛淑玉(しん・すご)氏(人材育成コンサルタント)からは、期待を裏切らないキリスト教界への辛口(からくち)なコメントも。
阿刀田高(あとうだ・たかし)氏(小説家)は、「聖書がこれだけ残ったのは、文学としてやはり美しかったから」と聖書を絶賛。
映画「沈黙」の中でひときわ存在感のある「モキチ」役を演じた塚本晋也氏(映画監督)は、壮絶な海での殉教シーンを撮影した時の秘話を明かしている。
これだけの面々をキリスト教雑誌に登場させた松谷氏に話を聞いた。
――どこに最もこだわりましたか。
徹底して信仰者としての主観を排し、客観的な声に耳を傾けようと意識して取材しました。結果的には耳の痛い苦言だけでなく、逆に今まで気づけなかったキリスト教のポテンシャルについてもたくさん教えられました。
――どんな方々に読んでもらいたいですか。
登場する方々一人ひとりにキリスト教との意外な接点があるので、それぞれのファンの方や、著作などに触れてきた方、同じようなスタンスでキリスト教に興味を持っている方にも読んでいただきたいです。
――読者へひとこと。
何ごともバージョンアップを図るには、外部からの知恵や力が不可欠です。風通しのよい健全なキリスト教会を作るためにも、ぜひ皆様の率直なご意見をお聞かせください。教会関係者はぜひ、これらの声に聞く耳を持っていただき、真摯(しんし)に応答していきましょう。
松谷氏が本書でも訴えているように、教会が「伝えたいこと」を一方的に発信するのは、伝道ではなく広告・宣伝(プロパガンダ)。そうではなく、ハタからの「聞きたいこと」に答えるという広報・PRの視点こそ、新しい「伝道」のかたちなのだと思わせてくれる1冊だ。
松谷信司編著
『宗教改革2.0へ──ハタから見えるキリスト教会のマルとバツ』
ころから
A5変形、並製、200ページ
2018年6月25日初版
価格:1600円(税別)