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「いよいよ引退だ!」あっ、私の事ではなくて教会のサンタクロースの事。アドヴェントになると会堂二階の窓外に現れ続けて21年、クリスマスイブの日までほぼ一ヶ月、昼夜を問わず地域の人々にクリスマスの訪れを告げ続けてきた。ボディーは大きく膨らむバルーンだったが、10年ほどで空気が漏れるようになってしまい「梱包材プチプチ」に替わり、ビニール生地の赤い服装も一度ペンキを塗り替えたのだがゴワゴワ。そして引退を決意させたのは「首の骨折」である。一昨年だったか風の強い日に首が折れてしまい、フードに支えられなければ収まらない状態になってしまった。昨年は何とか頭部を窓枠に括り付け、フードで隠して一ヶ月もちこたえてくれた。あれから一年、会堂の3階に横たわったままのサンタさんを見続けてきたが、徐々に「もう引退させてあげよう」という気持ちが強くなり、私が引導を渡してあげることにした次第。
21年間といえば21ヶ月になる。この間、サンタさんは傷むことはあっても成長した訳ではない。だからつい「いつも同じ作業」と無意識に掲げ続けてきたが、見続けてくださった人々は成長し、また大きな変化もあったはずである、最初の年に驚嘆した保育園の子どもたちは、今はもう20代半ばなのだから。そんなことを考えていると、21年という年月の長さ・重さが、サンタさんの痛ましい姿に重なってくる。雨の日風の日、雪が降った寒い日もあったし、もちろん暖かい日差しに照らされた日もあった。どんな時も道行く人々に伝え続けたのは、「希望を失わないこと」ではなかったかと、21年間を振り返って思うのである。
今週からアドヴェント。ラテン語で「アドヴェントゥス:到来」からきている言葉で、キリストの到来を待ち望むという意味になる。「みんなが生きていてよかったと思える世の中に変えていきたい。簡単には実現しないでしょう。でも、希望を持たないのは怠惰です。」(朝日新聞:11月21日朝刊「折々のことば」)作家の澤地久枝さんの言葉として紹介されていたが、「希望をもたないのは怠惰」とまで言い切る背後には、14歳で迎えた満州での過酷な敗戦時のことがあるのだろう。辛く苦しい時こそ「希望」が私たちに「生きよ」と励ます力になるのである。
教会の掲示板にサンタクロースは感謝とお別れの言葉を遺していった、「皆様の心の中には毎年私の仲間が訪れてくれるはずです。辛い事や哀しい事があった時にはサンタクロースを思い出して、心に元気を取り戻してください。どんな時にも夢を、希望を持って生きて行ってください。ありがとう。サヨウナラ!!」と。