誘惑、裏切り、無償の愛… ルーヴルのコレクションから〝愛〟をテーマに描かれた73点が来日 「ルーヴル美術館展 愛を描く」

六本木の国立新美術館で「ルーヴル美術館展 愛を描く」が開幕した。
フランス、パリのルーヴル美術館といえば、約48万点に及ぶ美術品を所蔵し、世界で最も来館者数が多いことで知られる。本展ではその膨大なコレクションのなかから、73点の作品を通して、西洋絵画における〝愛〟の表現を紹介する。

ピーテル・ファン・デル・ウェルフ 《善悪の知識の木のそばのアダムとエバ》 1752年以降 パリ、ルーヴル美術館 Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Franck Raux / distributed by AMF-DNPartcom
”愛の源流”としてプロローグで紹介

会場は、プロローグ「愛の発明」、第1章「愛の神のもとに―古代神話における欲望を描く」、第2章「キリスト教の神のもとに」、第3章「人間のもとに―誘惑の時代」、第4章「19世紀フランスの牧歌的恋愛とロマン主義の悲劇」の全4章で構成されている。

ギリシャ神話には以下の8種類の愛が描かれているというが、読者は〝愛〟という言葉から真っ先に何を思い浮かべるだろうか。

1.エロス(性愛)
2.フィリア(友愛)
3.ルダス(遊び、誘惑の愛)
4.アガペー(無償の愛)
5.プラグマ(永続的な愛)
6.ストルゲー(家族愛)
7.フィラウティア(自己愛)
8.マニア(偏執的な愛)

フランソワ・ブーシェ 《アモルの標的》 1758年 パリ、ルーヴル美術館 Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Gérard Blot / distributed by AMF-DNPartcom

神話によれば、愛の神・アモル(キューピッド)は、結びつけたい相手の心臓に矢を放つという。ただし、アモルはかなりのいたずら好きで、ギリシャ神話やローマ神話では、ハッピー・エンドよりも不貞や誘惑、略奪といったテーマを題材にした物語が多いようだ。

本展でも、美貌で知られたヘラクレスの妻・デイアネイラを連れ去ろうとするケンタウロスを描いた、ルイ=ジャン=フランソワ・ラグルネ(兄)の「デイアネイラを掠奪するケンタウロスのネッソス」や、軍神・マルスと愛と美の女神・ヴィーナスの情事を、ヴィーナスの夫・ウルカヌスが取り押さえる様子を描いた「ウルカヌスに驚かされるマルスとヴィーナス」などの作品が展示されている。

さて、本紙としては第2章に重点を置かずにはいられない。
「隣人を自分のように愛しなさい」(旧約聖書 レビ記19章18節)や、「敵を愛し、迫害する者のために祈りなさい」(新約聖書 マタイによる福音書5章44節)など、聖書では繰り返し愛が説かれ、第一ヨハネの手紙4章では「神は愛である」と明言している。

神は愛です。
愛の内にとどまる人は、神の内にとどまり、神もその人の内にとどまってくださいます。
ヨハネの手紙第一4章16節

本展で展示されている、リオネッロ・スパーダ「放蕩息子の帰宅」に描かれているのは、ルカによる福音書15章に登場する「放蕩息子のたとえ」。

展示風景より、左)リオネッロ・スパーダ《放蕩息子の帰宅》、右)シャルル・メラン《ローマの慈愛》、または《キモンとペロ》

ある日、父親に「あなたの財産のうちで私がいただく分をください」と持ちかけた息子は、あっという間に相続した財産を使い果たし、飢饉も重なり、食べるものにも窮するようになる。そこで初めて自分の愚かさに気づき、「父のところへ帰って『わたしは天に対しても、あなたに向かっても罪を犯しました。もう、あなたの息子と呼ばれる資格はありません。どうぞ、雇人の一人にしてください』と言おう」と決心し、ぼろをまとって帰宅した息子を、父親が喜んで受け入れる場面だ。

「どんなひどい罪を犯した人間であっても、悔い改めれば父なる神は赦し、愛する」というキリスト教のメッセージが込められており、父親が息子に向ける慈愛に満ちたまなざしは、神の無償の愛を表していると言えるだろう。

サッソフェラート(本名 ジョヴァンニ・バッティスタ・サルヴィ)《眠る幼子イエス》 1640-1685年頃 パリ、ルーヴル美術館 Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Stéphane Maréchalle / distributed by AMF-DNPartcom

サッソフェラート(本名=ジョヴァンニ・バッティスタ・サルヴィ)が、聖母マリアに抱かれる幼子イエスを描いた「眠る幼子イエス」も、数多く描かれた主題だ。

かつての宗教画といえば、描かれる人は無表情で平面的であったが、ルネサンス以降の宗教画はよりリアルに、感情的に表現されるようになった。サッソフェラート自身も繰り返し同じ主題を描いたが、この作品ではマリアもキリストも、〝どこにでもいるような母子〟として描かれているのが特徴で、あえて観る者が共感を覚えるように表現されているようだ。

展示風景より、ウスターシュ・ル・シュウール《キリストの十字架降架》

ウスターシュ・ル・シュウール「キリストの十字架降架」をはじめ、さまざまな画家によって表現されているキリストの磔刑も、キリスト教における愛を語る上で欠かせない場面だ。

聖書は「正しい者はいない。一人もいない」(ローマの信徒への手紙3章10節)と明言すると同時に、「そして自ら、私たちの罪を十字架の上で、その身に負ってくださいました。私たちが罪に死に、義に生きるためです」(ペトロの手紙一2章24節)、つまり、キリストは人類の罪の身代わりとなって十字架に架けられたと記されている。「しかし、わたしたちがまだ罪人であったとき、キリストが私たちに死んでくださったことにより、神はわたしたちに対する愛を示されました」

第1章、第2章に展示されている作品は、どれも神話や聖書におけるいわば〝名場面〟を描いたものであり、どちらも単語としては同じ〝神〟をテーマにした書物ではあるものの、改めてこんなにも「愛」の取り扱い方が違うものかと興味深い。

ジャン=オノレ・フラゴナール《かんぬき》 1777-1778年頃 パリ、ルーヴル美術館 Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Michel Urtado / distributed by AMF-DNPartcom

もう一つ、26年ぶりに来日したというジャン=オノレ・フラゴナール「かんぬき」も紹介したい。
18世紀のフランスで流行した、上流階級の男女の恋の駆け引きを描いた作品で、男性が女性を強引に抱き寄せ、部屋から出られないように扉にかんぬきをかけているように見える。

画面の半分を占める乱れたベッドからも、この場所で何が起こったか想像するに難くないが、〝かんぬき〟は男性性器、床に落ちる〝バラの花〟や〝花瓶〟は処女喪失・女性性器の隠喩であり、画面左側、ベッドの手前に置かれりんごは、創世記でアダムとエバが食べた禁断の果実を表しており、〝原罪の象徴〟として描かれることが多い。

古代より、人間の根源的な感情として、さまざまな芸術家によって表現された〝愛〟。
あなたが思い描く〝愛〟は、展示作品の中に見出せるだろうか。

東京展の会期は6月12日まで、6月27日~9月24日まで京都市京セラ美術館に巡回予定。

「ルーヴル美術館展 愛を描く」
会期:2023年3月1日~6月12日
会場:国立新美術館 企画展示室1E
開館時間:10:00~18:00(金、土~20:00)*入場は閉館の30分前まで
休館日:火(ただし3月21日、5月2日は開館)、3月22日
観覧料:一般2100円/大学生1400円/高校生1000円/中学生以下 無料
問合せ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
展覧会HP:https://www.ntv.co.jp/love_louvre/

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