BN O (British National Overseas/英国海外市民)のパスポート保持者の移民ルートが設けられて以降、華人キリスト者はイギリスで最も急速に成長しているグループとなり、増加率は28.8%に達し、2021年以降、27の新しい教会や団体が設立された。その一方で、香港の近年の社会運動に対する見解の相違から、一部の香港人の牧師は独立した教会を設立し、また移住した香港人キリスト者の中には華人コミュニティから離れてイギリス現地の教会に参加する者もいる。このような状況により、移住した香港人キリスト者と華人教会との関係は微妙なものとなっている。
英国外国聖書協会の黄寅軒博士が昨年行った調査で、中国大陸出身キリスト者の83%が華人教会に参加していることが明らかになったが、移民した香港人キリスト者は、政治的理由から中国大陸出身者との接触を避けるために、そうした華人教会の中国語礼拝に出席しない人が多いのだ。
「華人教会」(Chinese Church)は中国人によって設立されたという印象を与え、香港人教会と中国人教会は独立して運営されているように見えるが、実際にはイギリスにおいてその境界は曖昧である。20世紀中頃、多くの香港人がイギリスに移民してレストランなどを開業するようになったが、その時期に王又得牧師(Rev.Stephen Wang, 1900~71年)は、多くの移住した華人が福音を聞いたことがないことに心を痛め、華人を主な対象とする教会を設立することを決意した。
現在、「華人基督教会」(Chinese Christian Church)と名付けられた教会の大部分は、王牧師と「華僑キリスト教伝道会」(The ChineseOverseas Christian Mission=COCM)によって設立されたものだ。設立初期の会衆は主に香港人、マレーシア人およびシンガポール人華僑であり、中国大陸出身者が増加するのは21世紀初頭にイギリス留学組が増加してからである。2014年以前、香港人と中国大陸出身者は教会内で比較的和やかに共存していた。華人はイギリスでは少数派(2021年、全人口比0.7%)であったため、多くの華人教会は出身背景の区別なく資源を共有し、未信者に福音を伝えることを重視していた。
しかし2014年の雨傘運動以後、こうしたイギリスの華人教会は、香港内の教会と同様に、香港人と中国大陸出身者の分裂が顕在化し始めた。香港人キリスト教者は、教会が置かれている現状に対して牧師たちが適切に応答することを望んでいたが、牧師たちはこの問題を神学とは無関係と見なし、「政教分離」を理由に応答しなかった。ところが、2019年の逃亡犯条例改正案反対運動の際には、同条例案が宗教の自由にも関連していたため、多くの牧師が立場を表明するようになった。その後、BNO保持者の「移民の波」により、多くの香港人がイギリスに移住し、イギリスの華人教会の状況は一変してしまった。
イギリスの香港人キリスト者は、通う教会の選択肢が広がったため、「政治的に中立な教会」(現状に応答しない教会)に留まる必要がなくなり、香港人が設立した教会に移ることが可能となった。一部の新しい香港人移民の中には華人教会に留まる者もいるが、しかし中国大陸出身のキリスト教者にとって、香港人が過多に華人教会に流入することは好ましいことでない。というのも、牧師たちが広東語を話す会衆だけを牧会の対象にするようになり、人数が少ない北京語
(標準中国語)のグループを無視することになってしまうからだ。後者が北京語の独自の集会を起ち上げ、家庭集会の形式を取るようになったケースもある。
海外に移住した多くの香港人は社会運動で多くのトラウマを経験し、抑鬱状態に陥っている人も少なくない。彼らは専門的な支援が必要であるにもかかわらず、牧師たちは教会で政治の話をしないよう求めるばかりで、実質的には逆効果となっており、教会の相互支援と愛の機能を損なわせている。
兄弟姉妹の話を聴き、共に歩むことは、牧師として、さらには主にある枝・仲間としてとしての務めでもある。教会の数的な成長を優先して日和見主義的に中立を装うことは、表面的には人々に対して罪を犯さない行為かもしれないが、神に対して罪を犯す行為である。香港人移民を支援する牧師と教会共同体が初心を忘れず、世俗化が進むイギリス社会において「地の塩、世の光」としての役割を果たすことを願う。
(原文:中国語、翻訳:松谷曄介)
カリダ・チュウ 香港出身の神学者。ノッティンガム大学の神学・宗教学部講師。アメリカのフラー神学校で修士号、イギリスのエディンバラ大学神学部で博士号取得。同大学神学部講師を経て、2022年から現職。主な研究テーマは、1997年の香港返還以後の公共神学