台湾でも最も勢いのある教派の一つ、台北霊糧堂の宣教大樓の一室で月に1回、土曜日の昼にクリスチャンたちが集まっている。日本のために祈るという「stand together 日本祈祷会」(以下、日本祈祷会)というグループだ。霊糧堂の信徒が多いものの、エキュメニカルな運動なので、それ以外の教派の人も参加している。日本人もメンバーに含まれるが、大多数は日本宣教を志す台湾人クリスチャンである。
集会は日本語で聖書を読み、日本語のワーシップソングを歌う。そして、日本文化や日本のキリスト教についての学び、日本で活動する宣教師からのメッセージの共有、証しなどで構成されている。学びでは現在日本のクリスチャンたちについて毎月1人ずつ取り上げ、賀川豊彦のような人だけではなく、長谷川町子や加藤一二三といったキリスト教ではない分野で活躍する人や、高山右近のような歴史上の人物まで取り上げられる。また、日本から牧師や宣教団が来るとゲストスピーカーを依頼するなど、日本人クリスチャンとの交流にも積極的だ。
この集会の始まりは2011年3月の東日本大震災に遡る。台湾から寄せられた義援金の総額が世界一だったように、台湾社会はこの危機に対して大きな支援を行った。そのころ、日本のために、祈りと宣教が必要であると、この日本祈祷会がスタートする。コロナ禍の際にはオンラインになったが、その前後は対面で集まり、当の日本人ですら東日本大震災について記憶が薄れつつある今なお、熱心な祈りが続けられている。
日本宣教もこのグループの目的である。立ち上げの中心となった女性は現在、宣教師として日本で活躍しているし、現在東京で活動する宣教師も台湾にいる時には日本祈祷会をリードし、東京にいる時には毎回の集会に合わせて手紙を送り、活動内容や感じたことなどをシェアしている。石巻や沖縄へ短期宣教を行ったメンバーもいて、今後は日本祈祷会として短期宣教を行っていきたいという。
活動の場は教会の外へも広がる。例えば日本祈祷会のメンバーを中心に台北市内で日本語でのキャロリングを行っている。元々はコロナ禍で日本に行けないため、台湾でできる宣教ということで始まった。その会場は日系の書店が入る日本人もよく使うデパートが選ばれている。当然、そこでのターゲットは台湾にいる日本人も含まれ、台湾にいながら日本人宣教をしていることになる。
日台の交流がますます盛んになるが、日本のキリスト教界でこうした祈りの場があることは知られていないだろう。マタイによる福音書6章5、6節のように、祈る時には人に知られないようにするべきなのかもしれない。しかし、祈られている日本のクリスチャンや日本社会がそのことに無関心でいていいというわけではないだろう。台湾では日本のために祈るキリスト教の集会はここだけではない。日台クリスチャンの交流の萌芽的な動きについて、日本のキリスト教界は目を向けるべきなのではないだろうか。
藤野陽平
ふじの・ようへい 1978年東京生まれ。博士(社会学)。東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所研究機関研究員等を経て、現在、北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院教授。著書に『台湾における民衆キリスト教の人類学――社会的文脈と癒しの実践』(風響社)。専門は宗教人類学。