香港はこれまでアジアの金融センターの一つと見なされ、極めて活発な資本主義・自由市場を有してきた。香港人は伝統的に「職場倫理」を重視し、努力して働けば必ず報われると信じてきた。比較的高い一人当たりの月収により、香港は「働く者の楽園」とも称されてきた。
このような香港の職場文化は、教会と職場の双方に広まる「職場神学」(workplace theology)を育んできた。職場神学はもともとアメリカに起源を持つが、香港に伝わるとすぐに、キリスト教会で最も人気のある神学的テーマの一つとなった。香港の職場神学は主に次の3点に焦点を当てている。一つは、職場の状況において神の大宣教命令を実践し、福音を伝える方法である。二つ目は、自らの仕事やキャリアの中で、神が与えた「万人祭司」の召命を見出し、神に仕える方法である。そして三つ目は、キリスト教的職場倫理である。
そのため、過去20年間にわたり、香港の神学校や宣教団体は職場神学に関する数多くの講座やセミナーを開催してきた。さらに、「香港職場転化学院」(Hong Kong Institute for Marketplace Transformation)や「香港専門人材サービス機構」といった、働くキリスト者や職場におけるキリスト教活動を専門に支援する機関も存在する。また、有名な「アルファ・コース」(キリスト教入門講座プログラム)には職場版もあり、多くのビジネス界のキリスト者が職場で昼休みに小グループを設け、未信者の同僚を招いて福音を伝えてきた。
しかし、昨年「香港キリスト者卒業生フェローシップ」が主催した「職場神学の未来?」という座談会では、従来とは異なる意見が聞かれた。従来のテーマや視点に加え、若手労働者の声が取り上げられたのである。彼らは、経済の低迷、高い失業率、厳しい労働環境、長時間労働といった状況の中で、従来の職場神学がむしろ新たなプレッシャーになっていると主張した。また、これまでの職場神学が中産階級向けのものであり、現状にそぐわないとの指摘もあった。
イギリス人が経営する寿司店で働く王少勇牧師
2019年の逃亡犯条例改正案反対運動の際、抗議デモに参加した若者たちと共に行動し、政府や警察の暴力を公然と非難してきた王少勇牧師は、その後、政治的圧力を受け、2020年に香港を離れることを余儀なくされた。そして、台湾を経てイギリスに移住した後、現実的な事情から牧師職を離れ、製薬会社の包装作業員や寿司職人などを経験した。彼はFacebookの投稿で、仕事や身分の変化、そして肉体労働に従事する中で直面した予期せぬ困難が、自身の信仰を見つめ直す契機となったと語っている。
実際のところ、2019年以降の香港の移民の波は主に中産階級を中心に広がった。移民の多くは高等教育を受け、香港では専門職や上級ホワイトカラーの職に就いていた。しかし、イギリスでは言語や資格の違い、移民に対するさまざまな制約により、これまでと同じ職業に就くことが困難となり、多くが工場や倉庫での肉体労働に従事している。現在、バス運転手として働く元伝道者の一人は、「中年の香港人移民にとって、ホワイトカラー職に戻るための学び直しには多大なコストがかかる。しかも、イギリス社会では職業に貴賎の区別がなく、ブルーカラーとホワイトカラーの収入格差もそれほど大きくないため、特に変える動機がない」と述べている。
しかし、特に自身の職業に高い使命を見出してきたキリスト者にとって、単調な流れ作業の繰り返しの中で仕事の意味を見失い、迷いを感じることもある。王少勇牧師も、信徒からこの問題について相談を受けたことを明かしている。そして、彼が自身の経験から導き出した答えはこうだ。「機械はネジがなければ止まるが、流れ作業においては一人欠けても問題なく進行する。仕事の唯一の意味は『汗水を流さなければ、生計を立てることはできない』ことであり、家族を養うことがすべての意義である」
(原文:中国語、翻訳=松谷曄介)
フー・チンシン 上海生まれ、香港在住。香港中文大学、文化・宗教学研究科で博士号を取得。現在、2021年に香港で設立されたエキュメニカル志向の単立教会Hub Churchが運営するメディアHub Channelの編集担当。猫4匹を飼育。独学で日本語を勉強中。