柏木義円研究会は11月30日、「柏木義円の天皇観」と題する公開講演会をオンラインで開催した(日本クリスチャン・アカデミー関東活動センター共催)。同研究会は2014年12月に開催された柏木義円シンポジウムを皮切りに、毎年異なるテーマで講演会を開催してきた。第10回を迎えた今回は聖学院大学教授の村松晋(すすむ)氏が講師を務め、アメリカ、香港、韓国からの出席者も含め約30人が参加した。
柏木は幕末から明治期の激動の時代に育ち、キリスト教信仰を軸にしながら、天皇制と民主主義をめぐる思想を展開した。村松氏は、日本のキリスト教史研究において、柏木義円の天皇観と民主主義への志向は、「現代の私たちが見過ごしてはならない重要なテーマ」とした上で、近代日本のキリスト者が皇室に親和的だった時代に「天皇の赤子」論の陥穽を指摘できた柏木の思想は注目に値すると述べた。
特に、柏木が天皇神格化には断固反対していた一方、明治天皇を「国民の幸福を願う君主」として捉えた点を強調。天皇制を単なる権力構造として捉えるのではなく、道徳的・宗教的な視点から多面的に分析した柏木は、「天皇と国民がともに神の前に頭を垂れ、互いの人格を尊重し合う」という信仰を基盤に据えた社会構想を提示し、平等で調和の取れた社会が実現する可能性を追求した。
村松氏は、柏木が天皇のキリスト教入信を待望した根拠となる数々の資料を示しながら、柏木だけでなく後の南原繁や矢内原忠雄も占領期の終わりごろまでは皇室への敬愛を積極的に発信し、「君主国体と民主主義」の併存に期待した点で同様だったと指摘。
「柏木の思想は単なる過去の遺産ではなく、今日の民主主義や社会正義の追求においても深い示唆を与えるもの。しかし、その理想を実現するためには、天皇制や歴史的文脈を批判的に捉え直す作業を続けていくべき」と語った。
また、キリスト教界における「内なる天皇制」として、無意識のうちに教会運営に影響を及ぼす「名門意識」や「権威主義」「序列化」の問題を克服し、信仰の本質に立ち戻ることの必要性も説いて講演を結んだ。
講演の模様は、来春発行の『柏木義円研究』9号に収録される。