11月の米大統領選に向けて、野党・民主党の予備選が全米14州でいっせいに実施される「スーパー・チューズデー」。その投票が3日夜8時(日本時間)から始まった。全米で最も人口の多いカリフォルニア州や、それに次ぐテキサス州など、党の大統領候補を選ぶ代議員のおよそ3分の1がここで決まることになる。
その直前の2月29日に行われたのが、候補者選びの第4戦となるサウスカロライナ州の予備選だ。共和党はネバダ州同様、今回の選挙を行わないことを昨年9月に議決しており、無投票でトランプ現大統領(73)の選出が決まっている。
民主党のおもな選挙結果は以下のとおり。
ジョー・バイデン氏 得票率48・4%(代議員数39)
バーニー・サンダース氏 19・9%(15)
ピート・ブティジェッジ氏 8・2%(0)
エリザベス・ウォーレン氏 7・1%(0)
本命視されながらも、これまで3回の予備選で敗れていたジョー・バイデン氏(77)が初勝利を上げた。その結果を受けて、ピート・ブティジェッジ氏(38)、エイミー・クロブシャー氏(59)、トム・ステイヤー氏(62)がほぼ同時に選挙からの撤退を発表。共和党のトランプ氏との直接対決を前に、民主党内の無駄な争いを避ける判断を下したと見られる。その後、ブティジェッジ氏とクロブシャー氏、そして同じく選挙からの撤退を表明したベト・オルーク氏が、同じ中道派であるバイデン氏を推薦したことにより、公式にバイデン氏が民主党の中道派代表となった格好だ。激しく戦い続けた候補たちが、負けを認めた瞬間に相手方の応援に回る様子は、奇妙でもあり、感動的でもある。
ただし、これでブティジェッジ氏など3陣営の票がすべてバイデン氏に流れるかというと、そうでもない。どの候補も、政策や人望の傾向や度合いが同一なわけではないからだ。そのため、このような合流が行われた際、客観的に見れば路線が違う(ように見える)他の候補に票が流れることも多く起こる。実際、退陣したブティジェッジ氏からサンダース氏(78)に乗り換えた有権者たちも多いと報道されている。
一方、急進リベラルのエリザベス・ウォーレン氏(70)に対して、「すみやかに退陣し、(同路線の)サンダース氏支持に回るべきだ」と求める声は強まる一方だ。
さて、副大統領としてバラク・オバマ前大統領と一緒にタッグを組んだことを繰り返し強調してきたバイデン氏だが、今回のサウスカロライナ州の予備選での圧勝は、やはり同氏が黒人層に強く支持されていることを示した。とはいえ、「今も続くオバマ人気にあやかっている」と揶揄(やゆ)する声も多く上がっている。
バイデン氏の勝利の根底には、サウスカロライナ州の黒人層に多い中道派の存在がある。中道派の多くは、サンダース氏のように理想主義的な政策を打ち出す政治家より、バイデン氏のように現実性のある政策を持った政治家を支持する傾向が強い。
ただし出口調査によれば、60歳以上の黒人層を見た場合、バイデン氏を支持した割合は4分の3だが、年齢が下がるごとにその支持率は下がり、30歳以下では、サンダース氏支持38%に対して、バイデン氏支持は36%と逆転されている。このように、人種によるグループ分けには一定の価値があるものの、年齢層などでは違いが浮き彫りになるため、それぞれのグループが一枚岩だと想像するのは間違いだ。
また、バイデン氏はカトリック信徒で、今もデラウェア州の聖ジョセフ教会のミサに定期的に出席しているが、同じカトリックの信徒たちが必ずしもバイデン氏を支持しているわけではない。特にバイデン氏が昨年6月、公的資金による妊娠中絶費支援に賛同すると表明して、今までの中絶反対の立場を変えた際には、聖体拝領にあずかることを司祭から拒否される事件が起こり、メディアでも大きく取り上げられた。
中絶問題は、米国の政治において大きな意味を持っている。人工妊娠中絶手術に対して「国家予算を割いて支援すべきではない」とする意見は米国内で根強く、特に保守派が勢いを得ている近年には、いくつかの州で中絶手術を受けるのに厳しい条件が課せられるようになった。「プロ・ライフ(胎児の命を尊重)」派と「プロ・チョイス(女性の権利を尊重)」派との論争は、宗教においても政治においても意見が大きく分かれる点だ。
副大統領も務めたバイデン氏は政治家として輝かしい経歴を持っているが、私生活に目を転じてみると苦難に満ちている。1972年に上院議員として当選した翌月、妻と幼い娘を自動車事故で失い、2015年には、デラウェア州の元司法長官だった息子を脳腫瘍のため、46歳で亡くしている。「信仰は暗闇の中でこそ輝く」というキルケゴールの有名な一節で過去の苦しみを振り返るバイデン氏に対して、共感を寄せる支持者は多い。
民主党候補選びはいよいよ最終局面に入った。「スーパー・チューズデー」の結果は残りの予備選の大局を決めるものとなるが、大方の予想ではバイデン氏とサンダース氏の一騎打ちとなると見られている。「どちらの候補であればトランプ大統領の再選を止められるか」という目線で語られることも多いが、何よりも「今の米国の姿」がつぶさに現れる一大イベントになることは間違いない。そこに宗教グループや無宗教層の存在、格差社会や保険制度の問題、同性愛や中絶の論争などが深く絡(から)まり合っていることに疑いの余地はない。
候補者の紹介は今回の記事で終わりとなるが、これからも米大統領選挙には引き続き注目していきたい。