樋口進氏、「聖書協会共同訳」について語る(6)

 

新翻訳聖書セミナーが6月24日、松山ひめぎんホール(愛媛県松山市)で開かれた。そこで、「聖書協会共同訳」についての講演を、翻訳者・編集委員である樋口進(ひぐち・すすむ)氏(夙川学院院長)が行った。その内容を連載でお届けする。

樋口進氏=6月24日、松山ひめぎんホール(愛媛県松山市)で

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4 実例(3)

イザヤ40:31

「新共同訳」では、「主に望みをおく人は新たな力を得/鷲のように翼を張って上る」と訳されましたが、「望みをおく」と訳された「クーアッハ」は「待つ」という意味です。そこで「聖書協会共同訳」では、「しかし、主を待ち望む者は新たな力を得、鷲のように翼を広げて舞い上がる」と訳されました。「口語訳」でも「新改訳2017」でも「待ち望む」と訳されています。

ちなみに、私の娘は口語訳のこの箇所から「待子」とつけました。新共同訳で「待つ」という語がなくなったのでがっかりしましたが、今度は復活し、個人的には嬉しく思っています。

エレミヤ6:13

「新共同訳」では、「身分の低い者から高い者に至るまで/皆、利をむさぼり/預言者から祭司に至るまで皆、欺く」と訳されています。最近の社会史的研究では「ミッケタンナーム・アド・ゲドラーム」は「小さい者から大きい者まで」と訳され、必ずしも身分の上下を言っているのではないということが指摘されています。

そこで「聖書協会共同訳」では、「小さな者から大きな者に至るまで皆、暴利を貪(むさぼ)り、預言者から祭司に至るまで皆、虚偽をなす」とヘブライ語のとおりに訳されました。ちなみに「口語訳」では「小さい者から大きい者まで」と原文どおりに訳されていますが、「新改訳2017」では「身分の低い者から高い者まで」と訳されています。

エレミヤ20:7

「新共同訳」では、「主よ、あなたがわたしを惑わし/わたしは惑わされて/あなたに捕らえられました。あなたの勝ちです。わたしは一日中、笑い者にされ/人が皆、わたしを嘲ります」と訳されています。

しかし、「惑わした」と訳された「パーター」という動詞は「誘惑する」という意味です。出エジプト記22:15では、「おとめを誘惑し」という時に使われています。そこで「聖書協会共同訳」では、「主よ、あなたが誘(いざな)ったので、私は誘われました。あなたは私より強く、私にまさりました。私は一日中笑い者となり、皆が私を嘲ります」と訳されました。

エゼキエル16:10

「新共同訳」では、「そして、美しく織った服を着せ、上質の革靴を履かせ、亜麻布を頭にかぶらせ、絹の衣を掛けてやった」と訳されています。ここにはいろいろな身につけるものが出てきますが、これらの同定はなかなか困難です。しかし、「聖書協会共同訳」では最新の研究成果を取り入れ、「あなたに彩(いろど)り豊かな衣(ころも)を着せ、じゅごんの皮のサンダルを履かせ、上質の亜麻布をまとわせ、高価な衣服(不詳)で覆った」と訳されました。

「メシー」は、「新共同訳」「新改訳2017」「口語訳」では「絹」と訳されていますが、この時代のパレスチナに「絹」はなかったという指摘があります。しかし、正確には分からないので、注で「不詳」としました。

ハバクク2:4

「新共同訳」では、「見よ、高慢な者を。彼の心は正しくありえない。しかし、神に従う人は信仰によって生きる」と訳されています。「聖書協会共同訳」では、「見よ、高慢な者を。その心は正しくない。しかし、正しき人はその信仰(別訳=「真実」「誠実」)によって生きる」と訳されました。「ツァッディーク」は、「新共同訳」では「神に従う人」と説明的に訳されましたが、「正しい人」が適切でしょう。「ラシャー」も「新共同訳」では「神に逆らう人」と説明的に訳されていますが、「悪しき人」が適切でしょう。「エムナー」は「信仰」「真実」「誠実」などの意がありますので、脚注で別訳を記しました。

ローマ3:22(ガラテヤ2:16、20)

「新共同訳」では、「すなわち、イエス・キリストを信じることにより、信じる者すべてに与えられる神の義です。そこには何の差別もありません」と訳されましたが、「聖書協会共同訳」では、「神の義は、イエス・キリストの真実(別訳「への信仰」)を通して、信じる者すべてに現されたのです。そこに差別はありません」と訳されました。ここでも「ピスティス」には「信仰」「真実」の意味がありますので、脚注で別訳を記しました。

ガラテヤ1:2

「新共同訳」では、「ならびに、わたしと一緒にいる兄弟一同から、ガラテヤ地方の諸教会へ」と訳されています。「アデルフォイ」は「兄弟たち」の意味ですが、ガラテヤの教会には女性もいたであろうというフェミニズム的視点から、「聖書協会共同訳」では両方が含まれることを意識して、「ならびに、私と共にいるきょうだい一同から、ガラテヤの諸教会へ」と平仮名表記にしました。

以上、原文に忠実に、より自然な美しい日本語で、しかも礼拝にふさわしい翻訳を目指した一端をご紹介しました。

(「聖書協会共同訳」は現在、出版準備中です。訳文はまだ変化する可能性があります)

雑賀 信行

雑賀 信行

カトリック八王子教会(東京都八王子市)会員。日本同盟基督教団・西大寺キリスト教会(岡山市)で受洗。1965年、兵庫県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。90年代、いのちのことば社で「いのちのことば」「百万人の福音」の編集責任者を務め、新教出版社を経て、雜賀編集工房として独立。

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