新型コロナウイルスの感染拡大を受け、宿泊関連業が苦境に立たされている。帝国データバンクの調査によると、2020年1~11月までの旅館・ホテルなど宿泊施設の倒産件数は120件と、前年同期(68件)の約1.8倍を記録。旅行業者の倒産も相次いでおり、多くの関連業者は窮地に立たされ、頭を抱えている。
外国人観光客が激減し、一向にコロナ終息の気配が見えないいま、宿泊業者はどのような日々を送っているのだろうか。岐阜県の下呂温泉でクリスチャンの夫妻が営む旅館「いずみ荘」の若女将、長谷川美幸さんに話を聞いた。
「往来を控えている方が多いので、緊急事態宣言が発令されてからは土曜日以外は休館の日が多くなっています。周りの旅館も、休業中のところが多いですね。県内でも被害が広がっていますが、今のところ、温泉街からは感染者が出ていません。高齢者も多いですし、医療体制が整っているわけではないので、万が一感染が広まったら・・・と不安です」
アットホームなおもてなしや天然温泉に加え、純和風の日本家屋でのんびりくつろげるとして、外国人観光客からも人気を集めているいずみ荘だが、コロナ以降は利用客が一気に減少。昨年4月に休業要請が出されたことから、一年で最も集客がある時期に1か月半もの休業を余儀なくされた。その後、菅首相肝いりのGoToトラベル事業が始まったことで持ち直すかと思われたが、7月には追い打ちをかけるように豪雨災害が発生。
「幸い、下呂温泉は大きな被害はなかったのですが、JR高山本線が一時不通になったり、国道41号線が不通になったこともあってまた(客足は)途絶えました。昨年の収益は9割減です。4月から11月までの間で、売り上げから必要経費が払えたのは11月だけなんですよ。それ以外は、貯蓄を切り崩してやりくりしていました」
さらに、昨年末にはGoToトラベル事業が一斉停止。再び予約キャンセルが相次いだ。
「年末年始はどこもお客様が多いので、早い段階から市場に食材を予約しておかないと間に合わないんですね。それがこんなことになるなんて・・・。お正月用に購入した食材は、キャンセルできません。冷蔵庫いっぱいに詰め込んだ食材を、どうやって無駄にせずに使い切るか、随分苦労しました」
先述の通り、現在は週末以外は休業している日が多いというが、「いまは営業すればするほど赤字」だと美幸さんは言う。たったひとりでも宿泊客がいれば、人件費や水道光熱費、管理費もかかる。採算が合わないのだ。
一方で、先日は「無症状の患者が泊った場合、寝具類はどうしていますか?」という問い合わせが寄せられた。
「消毒や換気、検温の徹底をはじめ、宿泊や入浴時の人数制限を設けたり、同じ部屋に立て続けにご宿泊いただかないようにするなど、思いつく限りの対策はすべてしていますが、無症状の方の対策はと問われると・・・、さすがに対応しきれません」
そんな中で、コロナ禍だからこそ味わえた、小さな喜びもあったという。
「私たちは普段、日曜日の礼拝は教会のご配慮もあって午後2時から参加しているんです。礼拝に参加して、みことばから力をいただいて、またすぐ仕事に戻って・・・というのが日常だったのですが、先日、久しぶりに日曜日の朝、ゆっくり過ごしてから午後の礼拝に参加することができました。
もう一つ、全国から励ましのお言葉をいただいていて、本当に感謝しています。日本だけでなく、毎年アメリカから来てくださる方からご連絡をいただいたり、中国のお客様からはマスクを送っていただいたこともありました。こんな風に、たくさんの方に覚えていていただいて、ありがたいですね」
先の見通しは立たないが、この状況もいつかは終わると信じて、生き延びたいと話す美幸さん。
「本来でしたら、寒いいまの季節にこそ温泉に入って温まっていただきたいのですが、いまは我慢のとき、お互いに命を守るために、思いやりを持つことが大切なときだと思います。私たちもなんとか持ちこたえたいと思っていますので、状況が落ち着いて、安心して旅行ができるようになったら、また下呂温泉にお越しいただけたら嬉しいです」