毎年多くのキャンプが行われる夏休み。日本から9000キロ離れたヨーロッパの地でも、現地の日本語教会主催による聖書の学びと宣教協力を目的とした集会が定期的に開催されている。7月25日から28日、ドイツ・シュトゥットガルト近郊のシュヴェビシュ・グミュンドで行われた第41回「ヨーロッパ・キリスト者の集い」には、約30の教会・集会から約200人が集った。(レポート=福島慎太郎・名古屋緑福音教会ユースパスター)
1983年、ヨーロッパに住む二つの日本人家族が、夏の休暇をともに祈りつつ過ごそうと集まったのがそもそもの始まり。回を重ねるごとに、欧州在住の邦人クリスチャンのほか、帰国者や欧州以外へ赴任した信徒、さらには日本で在外邦人の支援をする牧師などが加わり、毎回200~300人を数える大所帯となった。以来、開催地を変えながら連綿と受け継がれ、そのネットワークを広げてきた。
今回の主題は「時がある」。ウクライナやパレスチナにおける激しい戦乱、異常気象や地震による災害など、日々私たちの目の前は人間の生を脅かす現実が広がる中、聖書に記された「神の時」という絶対的な支配と慰めを覚える必要性が4日間を通して語られた。
この集いの特徴は「スモールグループを中心とした参加型のプログラムと教団・教派を超えた交わりと霊的な一致」。幼児科から10代、20代の学生・青年、大人ときめ細やかにプログラムが準備されており、各グループに専門の教職者も就く。同時に全員で出席する朝の祈祷会や主日礼拝は、人種も国境も教派も超え、キリストを中心としたグローバルな霊的空間を共有する。実際、福音派以外にもルター派、日本基督教団、日本ホーリネス教団などさまざまな神学的背景を持つ参加者によって成り立っている。普段関わることの少ない教会やキリスト者との積極的な交わりも、この会の魅力の一つ。
ひと口に「ヨーロッパ在住」といっても事情はさまざま。駐在で数年間滞在しているケースや、代々ヨーロッパに拠点をもつケース。しかし、共通するのは「日本人」として生活することの生活様式やアイデンティティーにおける苦悩。そこで集いでは毎年、実践的な小グループでの学びが用意されている。内容は子育てや仕事、ヨーロッパにいる日本人への伝道や国際結婚、高齢者の平安など多彩なテーマが扱われ、毎年多くの人が自らの経験や苦労を分かち合う貴重な場となっている。
集いでは毎日早天祈祷会と礼拝の時間がもたれ、「神の時」をテーマにさまざまな聖書箇所から説教がなされた。特別講演ではジャーナリストの石堂ゆみ氏、スイス日本語福音キリスト教会牧師のマルティン・マイヤー氏が登壇し、混迷を極める中東情勢について語った。
「ヨーロッパ=キリスト教大国」という認識はもう古いかもしれない。週末の礼拝に足を運ぶ人がわずか10~20人というきらびやかな大聖堂も珍しくない。ただでさえキリスト教への関心が薄れる欧州社会で、日本語話者を対象とする集会の形成・維持は困難を極める。しかし、「日本人による宣教だからこそ」の伝道もあると話すのはベルギーの川上真咲さん(Japanese Christ’s Disciples 宣教師)。定期的な集会を開催する際、同時に日本食を一緒に作り、食べる機会を設けたところ、現地の日本人以上にベルギー人の参加が目立ち、そこから集会へ参加する例も見られたという。「日本人というアイデンティティーも、それらをこの地で活かすことも神から与えられたもの」と独自の働きに励む。
ヨーロッパの日本語教会では牧師不足などの理由により礼拝が定期的に行われていない例や、片道2時間以上かけて通う会員が、渋滞や急な仕事で定期的に集えないケースもあるという。
一方、近年、若者の数は増えている。この集いにもヨーロッパ各地から約40人の青少年が集い、全体の20%ほどを占めた。集いでは全世代での礼拝を目標としており、若者世代への配慮も手厚い。各集会で専門の講師が用意され、年齢に応じたプログラムも展開されている。ワーシップ講座の講師でもある横山大輔さんと声楽家の井ノ上歌歩さん(スイス日本語福音キリスト教会)が、集いのために賛美歌「カイロス」を共作。礼拝で会衆賛美として披露するなど、芸術家の多い地だからこその特色ある働きも見られた。
プログラムの一つに、CGNTVで放映されている同名の番組から着想を得た「モヤモヤアウト」が設けられた。若い世代のありのままの悩みを参加者全員でともに分かち合うという企画で、特に時間をかけて取り上げられたのが「LGBTQ」に関する議論だった。ヨーロッパでは日本以上に受容派と否定派の分断が深刻だという。過去のキリスト教会がどう論じてきたか、当事者を欠く議論はどこまでも想像の産物だという謙虚さが必要との意見が聞かれた。ある参加者は「否定や肯定とは異なる第三の道としての『神に造られた人類』という神の視点が重要。それを欠くと途端に善悪の結論しか残らない。大切なことは同性愛者も異性愛者もともに神の創造物である」と語った。
ティーンズ・ユースプログラムの最後には証し会が行われ、「日本にいる両親が教会につながるように祈りたくなった」「宣教師として見知らぬ国へ派遣される不安があったが、国を超えて祈ってくれる仲間の存在に気づき励まされた」など、ヨーロッパに住んでいる故の悩みや気づきが分かち合われた。
多感な時期をヨーロッパで過ごす日本人だからこそ、得られる経験と他者にはなかなか理解されない悩みもある。ある参加者は「置かれた場所で咲きなさい」という言葉をアレンジして、「どこに置かれるかが分からないのがユースのリアル」と話す。海外で日本人として生きること自体がある種のコミュニティの限定を生み出すが、その垣根を超え、ともに影響を与え合う隣人の存在は今後の人生においても大きな糧となるに違いない。
国を隔てる垣根は年々低くなり、留学や観光における欧州在住者の割合は増加している。現地で参加した感想は、日本語教会は変化の過渡期にあるということ。
実行委員を務めた清水勝俊さん(南ロンドン日本語キリスト教会牧師)は、今後に向けた抱負を次のように語った。「今年で41回目となったこの集いは、信徒運動として始まりました。信徒の方々が中心になって自主的に行っていることに、主がこの集いを祝福してくださっている秘密があるように思います。これからも、この地において主が始められた素晴らしい働きを皆それぞれが志を持って、主のみ前に集い続けてほしいと願います」
次回は2025年8月7日から10日に開催。海外宣教や欧州の日本語教会に関心のある方は、祈りや支援、現地での参加を検討してみてほしい。(ふくしま・しんたろう)