新卒者が「地域に立つ教会」の事例に学ぶ エキュメニズム研修会で牧由希子氏が講演

教会へ派遣される新年度を前に、神学校の新卒者を対象とする「神学校新卒者エキュメニズム研修会」が3月18日、日本キリスト教会館(東京都新宿区)で行われた(日本キリスト教協議会=NCC=教育部主催、NCC後援、日本キリスト教団出版局、日本聖書協会協賛)。牧師として赴任するにあたり、エキュメニズムの学びと教派を超えた出会いを体験してほしいとの願いから、毎年この時期に開催しているもの。今年は東京神学大学大学院、東京バプテスト神学校、日本聖書神学校、日本ルーテル神学校、農村伝道神学校から8人の新卒者が参加した。

NCC教育部理事長の石田学氏によるあいさつに続き、キリスト教系国際人道支援団体CWS(Church World Service)Japanディレクターの牧由希子氏が、「『地域に立つ教会』とは? 災害支援の現場から考える」と題して講演した。CWSは戦後の日本で食料や医療、医薬品など「ララ物資」の配給に携わり、東日本大震災の際、国内での緊急・復興支援活動を行うために日本事務所として改めて開設された。現在、災害弱者に陥りやすい在日外国人の支援を平時から行いながら、各地の災害支援、防災ネットワークづくりなどに取り組む。

2014年の入職以来、東北、九州、能登などの被災地で、地元の行政や教会と連携しながら緊急支援に奔走してきた牧氏は、教会が共通に抱える課題として、「教会員が地域にいない」「動ける人材がいない」「信徒以外の出入りがないため敷居が高い」「何をしているか見えない」「地域活動に興味関心が薄い」などを挙げ、特に行政職員が地域住民ではない場合が多く、住民間の人間関係が希薄な都内の教会こそ地域コミュニティ形成が難しいと指摘。

さらに、フードパントリーや食事の提供に取り組んだ日本キリスト教会柏木教会(東京都新宿区)、日本バプテスト連盟福井キリスト教会(福井県福井市)、福音ルーテル東京教会(東京都新宿区)の事例から、「外部者を受け入れた」「小さいことから始めた」「自己完結せず周囲の力を借りた」「教会員よりも市民の居場所になった」などの共通点を挙げ、たとえ始める主体の教会員が少数でも、地域社会とつながることによって本来の役割を担えるように変わることができることを紹介した。

2023年に日本福音ルーテル東京教会1階でオープンした多文化・多世代交流を目指す「コミュニティ・カフェ」では、第一・第三水曜日の午後、地域の憩いの場としてドリンクやパンを提供するほか、料理・クラフト・音楽・アートなど、さまざまな体験型イベント、多文化共生について学ぶワークショップを開催しているという。

災害が起きた際、地元で協力してもらえる教会を探すのに苦労したとふり返る牧氏は、日ごろから活用できる教会員の特技・スキル・趣味・関心を把握しておく重要性にも触れ、今日の教会が「新しい風を受け入れることができるか」「多様性を楽しめるか」「有事の際に教会を開けられるか」「地域と顔が見える関係を作れるか」問われているとし、そもそも「教会は誰のもの?」との問いを投げかけて講演を結んだ。

講演後は日本キリスト教団出版局、日本聖書協会の担当者がそれぞれの働きについて紹介し、参加した新卒者に記念品を贈呈。昼食をはさんで、会館内に事務所を構える諸団体を訪問し、その多様でエキュメニカルな働きについて学びを深めた。

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