死海文書、60年ぶりにユダヤ砂漠で断片発見

イスラエル考古学庁(IAA)は16日、約2000年前に書かれた聖書の巻物の断片を公開した。また、同じ発掘現場では、90~100リットルほどの容量がある編みかご(バスケット)も見つかった。放射性炭素年代測定で1万500年前のものと判定され、完全な形で見つかったものとしては世界最古と見られる。また、自然にミイラ化した6000年前の女の子と見られる遺体、硬貨、工具、ノミ取りくしなども見つかった。世界三大通信社の一つであるAFP通信が伝えた。

ユダヤ砂漠(写真:B1408)

断片が発掘されたのは、エルサレムの東南、死海西部に広がるユダヤ砂漠の「恐怖の洞窟(どうくつ)」内。内部から多数の骸骨(がいこつ)が見つかったことや、そこは崖(がけ)の上から80メートルほど降りたところに位置し、ロープで崖を降りなければたどりつけない横穴であることから、そう名づけられた。約1900年前のローマ帝国に対するユダヤ人の反乱の間、そこに隠れていたと考えられる。ユダヤ砂漠にはほかにも多くの洞窟があり、見つかっている洞窟の半分ほどで発掘作業が今も続けられている。

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見つかったのは、もともとヘブライ語で書かれた「ゼカリヤ書」や「ナホム書」(それぞれ旧約聖書の最後のほうに収められている十二小預言書で、預言者ゼカリヤやナホムに臨んだ神の言葉が記されている)の一節などがギリシア語に翻訳された巻物の断片。その中には次の有名な聖句も含まれていた。

あなたがたのなすべきことはこれである。互いに真実を語り、あなたがたの門で真実と平和の裁きを行え。(ゼカリヤ8:16)

文章の大半は、当時広く使われていた古代ギリシア語で書かれているものの、神の名前だけが、エルサレムの第一神殿時代から使われている古代ヘブライ語で書かれ、羊皮紙はローマ帝国時代に使用された可能性があるという。

イスラエル考古学庁は今回の発見について、「死海文書」の発見以来、最も重要だとしている。死海文書は、約2000年前の旧約聖書などの写本。1947年に初めて死海北西にあるクムラン洞窟で発見され、60年代までその周辺の11箇所の洞窟から見つかったが、今回の発見はそれ以来60年ぶり。

死海文書、イザヤ書の写本(写真:Daniel.baranek)

死海写本は「20世紀最大の考古学的発見」といわれ、世界最古の「十戒」の写本をはじめ、聖書の原型を知る上で貴重な資料。ベドウィンの羊飼いの少年が偶然にも巻物を収めた壺(つぼ)を見つけたという逸話が伝えられている。文書の成立は、内容や書体の分析と放射性炭素年代測定、質量分析法などから、紀元前250年ごろから紀元70年の間と考えられている。

内容は、全体の4割がヘブライ語聖書(旧約聖書)正典本文、3割が「旧約聖書外典」と「偽典」とよばれる文書群(エノク書、ヨベル書、トビト記、シラ書などで、聖書正典としては受け入れられなかったもの)、あとの3割が「(クムラン)宗団文書」と呼ばれるもの。文書は大部分がヘブライ語で書かれており、2割ほどのアラム語文書と、ごくわずかなギリシア語文書およびアラム語の方言であるナバテア語の文書を含んでいる。多くは羊皮紙だが、一部は砂漠では生産されない牛皮で、また一部パピルスもある。

8日に最新映画が公開されたばかりの人気アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズの中にも「死海文書」が登場する。謎の敵「使徒」や人類に関すること、そして人類の原点回帰の方法などがそこには記されており、それに従って秘密結社「ゼーレ」は「人類補完計画」を遂行するため特務機関「ネルフ」を使って使徒を殲滅(せんめつ)していくというふうに、物語に神秘性や厚みを持たせるために衒学的(げんがくてき)にフィクションとして使われている。

昨年、米国ワシントンDCの聖書博物館が所蔵する「死海文書」が、すべて偽物であることが判明したというニュースもあった。「死海文書」の大部分がイスラエル政府の管理下にあるが、その断片が市場に流通して、収集家などの興味の対象となっていた。21世紀に入って断片が古書・古美術品市場に流通するようになり、その真正性に疑義が出され、聖書博物館に収蔵されていた断片も、偽造の可能性が指摘されていた。

雑賀 信行

雑賀 信行

カトリック八王子教会(東京都八王子市)会員。日本同盟基督教団・西大寺キリスト教会(岡山市)で受洗。1965年、兵庫県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。90年代、いのちのことば社で「いのちのことば」「百万人の福音」の編集責任者を務め、新教出版社を経て、雜賀編集工房として独立。

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