教会をフランチャイズ化する

3割を超す米国内のメガチャーチと同じく、物理的な建物という制約を超えてクロスローズが成長するためには、テクノロジーとリソースが欠かせない。同教会の指導層は、「クロスローズ・エニウェア(どこでもクロスローズ)」と呼ばれる、個人の家に集まって礼拝の映像を観るグループを、教会の将来にとって欠かせないと考えている。クロスローズ・エニウェアは、シアトル、ロサンゼルス、ヒューストンといった、シンシナティから遠く離れた都市に少なくとも38グループある。

クロスローズは月10万ドルを投じてクロスローズ・エニウェアのアプリを運営している。同アプリのデータは、新拠点設立検討のためのフィージビリティー・スタディー(採算性調査)にも使われている。ある特定の場所で100人以上が集まっていることが確認されれば、クロスローズは、ウェブ上ではなく実際にその地域にリソースを投じるべきかどうかを評価検討するのだ。

1月、クロスローズの最新のキャンパスがシンシナティ郊外にオープンした。スタッフが地域住民の関心が高まっていると見た地域だ。最初の週末の礼拝には8000人が訪れた。

クロスローズが建物という制約から解放され、中西部の外にまで拡大するためには、テクノロジーが必要だ。スタートアップ企業のようなメンタリティーを保ち続けているトーム師は言う。「神が望んでおられるとおりに教会が大きく成長するなら、どんなに大きな建物でも小さすぎるでしょう」

クロスローズのメディア部門を率いるジェン・スペリーは、クロスローズのスタッフは「自教会が地域を超えて成長していくだろうとずっと感じていた」と語る。昨夏よりクロスローズの各部門は、地域の壁を感じさせない、より普遍的なコミュニケーションを目指して、新しい言葉でクロスローズを語るよう求められている。たとえばスペリーの部門は、「全国チーム」として再編成された。

この仕事に就いたころ、スペリーは教会が変化する速度に驚き、「これからもずっとこうなのでしょうか」と上司に尋ねた。クロスローズのような教会では、この質問への答えはいつも「イエス」だ。ペースの速い職場環境に、「教会で働くのは退屈なのでは」と思っていたペリーの心配はみじんに砕けた。

トーム師は「常に変化する環境にいるのは楽しいですが、ストレスにもなります」と認める。

クロスローズの教会員の中には、教会の成長の度合いと変化に、恐怖を感じたり疑問に思ったりする人もいる。同教会の発足地であるオークリーのキャンパスで礼拝を守る古くからの教会員は、全国への拡大宣言が出されて以来、信徒間に不安の声がひそかに上がっていると言う。オークリーはシンシナティの中心部に近く、若手プロフェッショナルが多く住む地域だ。

マリー(姓は匿名希望)という教会員は、こう語る。「全国規模の教会になるという宣言を聞くと、それが自分たちにとってどのような意味を持つのか、アイデンティティーを失うことになるのではと不安になってしまう人がいます」。自身も半信半疑だったマリーだが、「もし神がこの思いをリーダーたちの心に置いてくださったのならば、神のなさることを信頼しなければ」と語った。

クロスローズは、新しい地域に進出するにあたり、フランチャイズ形式は必ずしも成功につながらないということを経験から学んでいる。クロスローズがケンタッキー州レキシントンにオープンした際には、クロスローズ・クリスチャン・チャーチという既存の教会と合併するかたちで進出した。トーム師によれば、教会名も同じ、主任牧師同士の仲もよく、新体制への移行は問題はなく、可能と思われた。しかし、最初の半年で元の教会員の約40%が教会を去ることとなり、その一部は両教会の神学的な相違を転会の理由としていた。

クロスローズが学んだ別の教訓は、進出先の地域文化を理解するということだ。ケンタッキー州レキシントンの一例を挙げると、ケンタッキー大学の野球の試合がある時は市民の大半が家でテレビを観るため、レキシントンのキャンパスではシーズン中の土曜の夕礼拝は成立しない。

クロスローズのスタッフは、教会が拡大するにつれ、いかに地域差に配慮していくかを考え続けている。配慮は全拠点で放映される説教で用いる表現にまで及ぶ。スペリーは言う。「シンシナティだけに通用する物の言い方は避けなければなりません。でも、まだ失敗します。完璧にはできません」

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「クリスチャニティー・トゥデイ」(Christianity Today)は、1956年に伝道者ビリー・グラハムと編集長カール・ヘンリーにより創刊された、クリスチャンのための定期刊行物。96年、ウェブサイトが開設されて記事掲載が始められた。雑誌は今、500万以上のクリスチャン指導者に毎月届けられ、オンラインの購読者は1000万に上る。

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