「ボンヘッファーと同じ境遇」とトランプ支持者 国際ボンヘッファー協会と親族が非難

ボンヘッファーの親族と研究者たちはこのほど、「私たちはボンヘッファーと同じ境遇にいる」と発言するトランプ支持のキリスト者らを非難する声明を発表した。「ミニストリー・ウォッチ」が報じた。

作家でトランプ支持者のエリック・メタクサス氏は、キリスト教のトーク番組「フラッシュポイント」で「ボンヘッファーにならう時」と発言し、キリスト者が民主党に立ち向かうよう呼びかけた。同氏は以前からドナルド・トランプ候補は神に選ばれた為政者であり、彼に反対することは神に反対することと同じだと主張してきた。彼の最新刊『無宗教的キリスト教』(ボンヘッファーの使用した用語)では、現在のアメリカ政治を「霊的な戦争」「終末の兆候」と述べている。

また、ヘリテージ財団を含むトランプ支持者たちで構成されている「プロジェクト2025」においても、ボンヘッファーの業績を取り上げ、団体の活動になぞらえた発言が確認されている。

これを受けて国際ボンヘッファー協会は10月8日、メタクサス氏をはじめとするキリスト者に対し、現在の選挙とナチス台頭の比較、ボンヘッファーをキリスト教ナショナリズムのために誤用していると非難する声明を発表。「プロジェクト2025」についても、ボンヘッファーの親族と一部の研究者たちが「彼の神学と生涯の危険で痛ましい誤用である」と非難した。

声明の背景には、11月下旬に公開を控えたボンヘッファーの伝記映画もある。予告編にある「私の国家は内部から侵略された」などのセリフがSNS上で一人歩きし、右派の人々に利用されていることも確認されているという。

伝記映画のポスター©Angel Studios

ボンヘッファーの親族はインタビューに対し、「ボンヘッファーは、彼が利用されている過激な右翼や暴力的言説に近づくことは考えられず、むしろ批判していたはず」と述べている。

一連の報道について、メタクサス氏にコメントを求めたが10月24日時点で返答はないという。

アウグスブルク大学教授で国際ボンヘッファー協会英語支部会長のロリ・ブラント・ヘイル氏は、映画制作者が芸術的な側面を優先する必要性について、研究者たちも理解を示しているとも述べた上で「彼の暗殺者という側面からキリスト教ナショナリズムやそれに準ずる見解を支持する場合、視聴者は誤ったメッセージを受け取り、政治的暴力の正当化に悪用されるかもしれない」と危惧を示した。

「ボンヘッファーの抵抗運動と現代における政治的暴力の関連性について、いかなる試みにも強く反対しなければならない」とした国際ボンヘッファー協会の声明。ボンヘッファーの映画について、人種差別と反ユダヤ主義を拒否し、市民的言説と平和主義を実践することが宣伝サイト内で呼び掛けられていると強調し、制作者たちもこの映画がキリスト教ナショナリズムを肯定する意図はないと強調している。

映画の脚本家兼監督であるトッド・コマルニッキ氏は、「ボンヘッファーは最終的にどのグループにも属していなかった。彼の愛、恵み、正義、勇気は唯一無二であり。私たちはその声に耳を傾けるべきである。自分たちの文化的不満のために彼を盗用するすべての声に耳を傾けるべきではない」と警告を発している。

(翻訳協力=福島慎太郎)

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