「ハロウィン」が終わり、店頭のディスプレイもクリスマスに模様替え。そして、今年のアドベント(待降節)もいよいよ12月2日から。それに先駆け、カール・バルト説教選『しかし勇気を出しなさい──待降・降誕・受難・復活』(日本キリスト教団出版局)が10月25日に刊行された。バルトが1968年に召天してから今年が50年目であることを記念したものだ。
20世紀を代表する神学者カール・バルトは名説教者としても有名で、クリスマス説教集としては『降誕』(新教出版社)がある。また、いま手軽にその説教に触れるには、バルト・セレクション『聖書と説教』(同)も。しかし、日本語で読めるものとしては、『カール・バルト説教選集』全18巻(日本キリスト教団出版局)がいちばん本格的だ。その中から、待降、降誕、受難、復活をテーマとした説教12編を佐藤司郎氏(東北学院大学名誉教授、日本基督教団・仙台北三番丁教会牧師)が選んだものが本書。ちなみに、『カール・バルト説教選集』全18巻召天50年記念セットは税込10万円、限定30セットで12月に発売される。
全体は「第1部 アドヴェント・クリスマス説教」と「第2部 レント・イースター説教」で構成され、「待降」2編(イザヤ書42・1─4による説教、ヤコブ5・7─8による説教)と「降誕」4編(最後の問いと答え、今日汝らのために救い主生まれたまえり、われらと共にとどまりたもう、しかし勇気を出しなさい)、「受難」2編(罪の赦(ゆる)し、イエスと共なる犯罪人)と「復活」4編(永遠の生命──復活節、われ生くれば汝らも生くべし、わずかの間、復活日の秘密)が収められている。
表題の「しかし勇気を出しなさい」は1963年、死の5年前のクリスマス・イブにバーゼル刑務所で語られたクリスマス・メッセージだ。「あなたがたには世で苦難がある。しかし、勇気を出しなさい。わたしは既に世に勝っている」(ヨハネ16:33)から取られている。
「(バルトは)牧師職を離れてからも求めに応じて喜んで説教壇に立った。晩年バルトが、すなわち、1954年から1964年までの10年間、年齢でいうと68歳から78歳、バーゼル刑務所で年に2、3回のペースで説教したことは説教者バルトを語る上で欠くことはできない。……本書にはその中から5編採録した」と佐藤氏は「あとがき」で書いている。特にこの「しかし勇気を出しなさい」などは、「最後のバーゼル刑務所における深みと暖かみのある対話的な説教」と評しているが、そこでの説教は翌年のイースターが最後となるだけに、感慨深いものがある(244~245頁)。
「(キリストは)私たちの不安という荒れた大海に向かって、聞き逃すことのできぬような仕方で、『しかし、勇気を出しなさい』と言われる。ここで私たちは再び、あの力強く壮大な『しかし』という言葉を聞く。私たちが聖書の他の様々な箇所でも出会う、あの『しかし』という言葉を聞く。そこではその都度〔先(ま)ず〕何か否定できない確固とした真実な事実が、指摘されている。例えば、『それは人間にできることではない』(マタイ19:26)とか、『山は移り、丘が揺らぐこともあろう』(イザヤ書54:10)とか、『大地は滅びる』(マタイ24:35)とか、『主はわたしを厳しく懲(こ)らしめられた』(詩編118:18)とか。しかしその上で、そのような事実に対して、第2の事実が対置される。この第2の事実は、第1の事実を否定しない。それゆえに、抹殺したり抹消したりしない。しかしその代りに、それを小さいものとして示し、それを完全に凌駕(りょうが)する。例えば、『しかし神は何でもできる』(マタイ19:26)とか、『しかし、わたしの慈しみはあなたから移らず』(イザヤ54:10)とか、『しかし、わたしの言葉は決して滅びない』(マタイ24:35)とか、『しかし、死に渡すことはなさらなかった」(詩編118:18)とか。そしてここでも『あなたがたには世で不安がある。しかし、勇気を出しなさい』と言われる」(105~106頁)
佐藤氏は、バルトの説教の録音をぜひ聞くことを勧めている。「語り口の迫力に圧倒されるに違いない。……重要な言葉は強弱を付けくり返し、いわばみ言葉のリズムにしたがって説き明かしはつづいていく」(245頁)。
その説教の醍醐(だいご)味を、この秋の夜長に味わってみてはいかがだろうか。
佐藤司郎編・解説
カール・バルト説教選
『しかし勇気を出しなさい──待降・降誕・受難・復活』
日本キリスト教団出版局
2018年10月25日初版発行
四六判・248頁
2400円(税別)