教皇フランシスコは7日、駐バチカン(ローマ教皇庁)外交団を前に新年の挨拶(あいさつ)をした。バチカンと正式に外交を結ぶ183カ国と、マルタ騎士団、欧州連合の代表者の前で教皇は、昨年、教皇庁と中国で結ばれた暫定合意について次のように話した。
「中国の司教選任についての教皇庁と中国の暫定合意は、長期にわたる、よく考えられた交渉の結果です。それによって教皇庁と中国が協調していく安定した要素が定まりました。
声明で述べたとおり、教皇庁の任命していない中国の司教を教会の完全な交わりの中に再び入れることを私は認めました。そして彼らに、中国のカトリック教徒の和解と福音宣教のために広い心で働くようにと勧めました。
暫定合意についてのさらなる交渉は、中国でも信教の自由が享受されるため、さまざまな問題の解決に役立つと期待しています」
全世界の司教を任命する権限は教皇にあるが、中国はこれを内政干渉として1951年に国交を断絶して以降、バチカンの承認なしで司教を選んできた。しかし昨年9月22日、中国政府の任命した司教を教皇が正式に追認するという暫定合意を結んだ。
教皇は9月26日、一般謁見(えっけん)で次のように説明し、祈りを呼びかけた。
「先日、北京で、司教の任命をめぐる暫定合意の署名が行われました。これは、中国のカトリック教会の善と社会全体の調和のため、教皇庁と中国当局のより前向きな協力を容易にすることを目的としたものです。
これによって、過去の傷を癒やし、中国のすべてのカトリック信者の完全な一致を再建・維持し、彼らが福音を告げ知らせる努力を新たにすることを助ける新しい段階が開けることを希望します。
親愛なる兄弟姉妹の皆さん、私たちは熱心な祈りと兄弟的友情をもって、中国の兄弟姉妹に寄り添うよう招かれています。彼らは孤独でないことを知っています。全教会は、彼らと共に、彼らのために祈ります」
その後、発表された教皇の声明の概略は次のとおり。
「暫定合意の目的は、福音宣教を支援・推進し、中国のカトリック共同体の完全で目に見える一致を獲得・維持することです。
アブラムは神の呼びかけに従い、その歩みの先に何があるかを知ることなく旅立ちました。もしアブラムが社会的・政治的・思想的条件にこだわっていたら、決して旅立てなかったでしょう。しかし彼は神と御言葉に信頼し、自らの家と安全を捨てたのです。彼の純粋な信仰が歴史の中に変化を生み出したのです。
残念なことに、これまで中国のカトリック教会は、深い緊張と傷と分裂の中にありました。特に司教のあり方をめぐって分裂が生じていました。国家が教会に対して直接の管理を押しつけ、取り仕切ろうとした時から、中国の教会の中に非合法な現象が生じました。
このたび私は、中国の司教たちに和解を授け、教会の完全な交わりに再び入れるよう認めることを決意しました。彼らが再び得た、世界に広がる教会との一致を目に見える態度で表し、それに忠実であることを願います。
暫定合意は、中国のカトリック教会の新しいページをしるすために役立つでしょう。この合意は、中国当局と教皇庁間の協力に初めて安定した要素をもたらすものです」
中国には政府公認のカトリック教会「中国天主教愛国会」があり、信者は約550万人で、これまで教皇による叙任権・管轄を認めず、バチカン側からも認められていなかった。人口14憶人弱の中国には、カトリックとプロテスタントの信者が、政府非公認の「家の教会」の信者を合わせると1億人以上いるといわれるが、その実数は定かでない。カトリック信者も、家の教会のほうが多く、政府による取り締まりの対象となっている。
今回の教皇庁による決定で、家の教会の信者の中には、政府側に吸収されることへの不満を吐露する声も出ている。それに対して、教皇は声明の中でこう言及している。
「最近になり、中国のカトリック共同体の現況と、特にその将来について、対立する多くの意見が広がりました。こうした意見や考察の渦(うず)が、少なからぬ混乱を生み、多くの人の心に反対の感情を起こしたであろうことを、私は十分知っています。ある人々は疑念や当惑を抱き、ある人々は教皇庁から見捨てられたように感じました。これに対して、他の多くの人々の中では、中国において豊かに信仰を証しするための、より落ち着いた未来への希望に励まされ、前向きな期待と考えが勝りました」