殉教者偲ぶ「デ・アンジェリス祭」を記録 『ローマ・シチリア巡礼記念誌』編著 千葉悦子さんインタビュー

江戸・札ノ辻における元和の大殉教から400年となる2023年。殉教者の1人であったジローラモ・デ・アンジェリス神父の祖国イタリアへの巡礼団が結成された。ローマとシチリア島をめぐり、シチリア島中部に位置するデ・アンジェリス神父の故郷エンナを訪問し、町で毎年行われている「デ・アンジェリス祭」に日本人の巡礼団として初めて参加を果たした。同行司祭は日本二十六聖人記念館館長のデ・ルカ・レンゾ神父。キリシタン時代、日本で殉教したシチリア島出身の宣教師は5人に上るが、現地でいま彼らがどのように記憶されているのか。昨年、『ローマ・シチリア巡礼記念誌――江戸・元和の大殉教400年記念』=写真=と同記念DVDが制作されたことで、現地の詳しい状況が分かるようになり、「いつか殉教者の足跡をたどるときのガイドブックになる」と巡礼者以外からも好評を得ている。巡礼の実行委員長を務め、記念誌の編集を担当した千葉悦子さん(カトリック吉祥寺教会信徒)に話を聞いた。

――よくローマへの巡礼という話は聞くのですが、シチリア島まではなかなか足が伸ばせませんよね。巡礼に行くようになった経緯をお聞かせください。

千葉 シチリア島はイタリア本土からまた海を渡らなければならないので、日本から行く人は少ないですね。行ったとしてもパレルモくらいでしょうか。島の内部に行くと、日本人を初めて見たという人が多いです。逆にそんな遠方から福音を伝えるために日本にやって来たということに感慨を覚えます。以前、イタリアのサイトで、デ・アンジェリス神父の故郷で「デ・アンジェリス祭」が行われていると知って、それ以来いつか行けたらと思っていたのですが、2023年が江戸の大殉教からちょうど400年じゃないですか、その年に「デ・アンジェリス祭」に日本の巡礼団が参加できたらどんなにいいだろうと思って。そういう巡礼企画を探しましたがなかったため、自ら企画を立ち上げました。

――記念誌を読みましたが、日本に来て殉教したシチリア島出身の宣教師が5人もいて、しかも重要な人物ばかりで驚きました。昔からそんな遠い地と信仰的なつながりがあったというのが不思議でもあります。計画はどのように立てたのですか?

千葉 最初はシンプルに「エンナ訪問と祭への参加」と考えていたのですが、計画を練るうちに、シチリアには他に4人の来日宣教師がいることが分かってきました。『沈黙』の主人公のモデルであるジュセッペ・キアラ神父、キリシタン時代最後の宣教師とされるシドティ神父、東北布教を担ったアダミ神父、ドミニコ会のアンサローネ神父です。そこで、「『デ・アンジェリス祭』への参加と5人の宣教師の故郷を訪ねる旅」へと計画が固まっていきました。キリシタン史に造詣深いレンゾ神父の同行が決まったことも幸いでした。宿泊や移動に関しては旅行会社にお願いし、現地在住の日本人通訳に同行してもらいました。また、パレルモ在住のマリオ神父が――この方はシドティの研究者で、日本語に翻訳されたシドティの本も執筆していらっしゃるのですけど――私たちの訪問予定の教会と連絡を取り合うなどご助力くださいました。

――DVDも拝見したのですが、「デ・アンジェリス祭」のシーンが圧巻です。霧のたちこめる町を、旗を掲げたレンゾ神父と日本の巡礼団が進み、その後に大きな十字架、そしてデ・アンジェリス神父の神輿が続くという、幻想的で熱いパレードの様子が、何百年も前にタイムトリップしたようでした。エンナの人々は毎年、こうしてデ・アンジェリス神父の記憶を新たにするのだと、記念誌に書かれていました。撮影のためにスタッフが特別に同行したのですか?

千葉 いえ、プロの撮影隊は同行していません。DVDの制作は考えていて、巡礼団アシストのために参加していた私の家族には、写真や動画を撮っておいてくれるよう頼んではいたものの、現地では大所帯のアシストもたいへんでしたし、私も超多忙で打ち合わせが一切できませんでした。それでも偶然にというか、大切な場面だけは映像に残してくれていて、本当にありがたかったです。

「デ・アンジェリス祭」

――もともと千葉さんは旅行によく行かれるんですか? 巡礼というのは、企画を思いついても実行に移すのが難しいと思うのですが。

千葉 旅行に行き慣れているということはないです。でも2012年に、有馬晴信公の没後400年に際して、記念祭を企画し、実行委員を務めました。

――400年の節目だからどこかが企画するだろうと思いきや、誰も動いておらず、結局自分が動かなければということがありますよね。動いたとしても理解が得られず難航することも。それでも諦めず、成し遂げたということに頭が下がります。記念誌をどんな人に手に取ってほしいですか?

千葉 福音宣教に命をかけた宣教師に興味がある方に手に取っていただきたいですね。彼らの故郷を訪ね、美しい風景や人びとと出会うなかで、私自身、5人の人物像がより鮮やかになった気がします。400年前の洗礼台帳や洗礼盤が残っていたり、現地に行くまで知らなかった文物と出会うことができたりしました。また、シチリアの方々も私たちの訪問に驚きつつ、とても喜んでくれました。現地の神父さんたちの心情あふれる手紙も記念誌に収録しましたので、それらもぜひ読んでいただけたらと思います。

――ありがとうございました。

今回の巡礼には高齢者も多く参加していたが、千葉さんの息子2人が同行し、手助けしたことで、全員が恵みのうちに無事帰国できたという。記念誌とDVDの制作には千葉さんのほか、天野江美さんが協力した。旅行にはトラブルがつきもので、パレードに使う横断幕を紛失するというまさかのピンチも発生。だが、参加者の中から2人が「作ります」と手を挙げてくれ、ありあわせの物で横断幕を作ってしのいだのだとか。その他、数々のハプニングもチームで乗り切り、「今ではすべてが良い思い出です」と千葉さんは語る。

『ローマ・シチリア巡礼記念誌』(税込2500円)、『ローマ・シチリア巡礼記念DVD』(税込1500円)。購入をご希望の方は千葉悦子さん(eccoyoyo@gmail.com)まで。

千葉悦子さん

【デ・ルカ・レンゾ神父のコメント】

「今回の巡礼は、日本で殉教したシチリア出身の宣教師の故郷(ふるさと)を訪れ、地元の人びとに感謝し交流を深めることが目的でした。そして実際にその地を訪れた私たちは地元での歓迎に驚きました。それは私たちが単なる観光客ではなく、祈りの姿勢を持った巡礼者として訪れたからでしょう。シチリアの人々とふれあい、共に殉教者の証しを讃えて祈ることができたありがたい体験でした。

巡礼記念誌とDVDはていねいに編集されており、予備知識がない人でも江戸時代のシチリアと日本の関係について深く思いをめぐらすことができると思います。日本とシチリアの歴史のそれぞれの単独研究からは得られない歴史、宗教的感覚が得られ、思いがけない発展につながることでしょう。本とDVDを通して現地の雰囲気を感じ、感動を味わっていただきたいです」

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