「雨傘運動」から10年 都内で記念の講演会を開催、香港のためにさらなる祈りを呼びかけ

「雨傘運動」から10年になるのを記念して9月23日、香港の民主化運動を牽引してきた台湾在住の朱耀明牧師が都内の教会で講演を行った。メインテーマの「香港教会の現状と課題」に、「命を一筋の光として灯す」という副題を加え、香港の現状と未来のためにさらなる祈りを呼びかけた。

朱耀明牧師

講演会は、都内某所の教会で開かれ、有志の牧師、東アジアの研究者、学生など40人余りが参加した。講演に先立ち、香港の民主化運動・大規模デモにおいて市民のあいだで広く歌われた讃美歌「Sing Hallelujah To The Load」が歌われた。民主化運動への弾圧が厳しくなるなか香港を離れ、台湾で暮らすようになってから4年になる講演者の朱氏は、この賛美を聞くと様々な情景が思い浮かび、涙があふれてくるという胸の内を明かした。

講演では、聖書や先人が残した言葉を引用しながら香港の現状をどう捉えるかを理念的に語った。

香港で民主的な選挙を求め76日間にわたって続いた雨傘運動は、その後の民主化運動に大きな影響を与え、2019年の「逃亡犯条例改正反対」の大規模デモにもつながった。しかし、中国政府は香港への統治をより強固にし、2020年には香港での反政府活動を取り締まるための法律「香港国家安全維持法」を施行。それにより香港社会の道徳は崩壊し、人々は自由を失い、法律は異なる意見を持つ人を裁くための道具となってしまっている。今は偽りの平和しかないが、福音のみが大きな力になると旧約聖書のエレミヤ書を引用した。

「彼らは、わが民の傷を安易に癒やして『平和、平和』と言うが、平和などはない。彼らは忌むべきことをして恥をさらした。それを少しも恥ずかしいと思わず屈辱に気付きもしない。それゆえ、彼らは倒れる者と共に倒れ私が彼らを罰するとき、彼らはよろめき倒れる――主は言われる」(エレミヤ書6章14〜15)

しかし、香港のある教会では、同法が香港に真の平和と安定をもたらすようにと祈っているという。今回サブタイトルを加えたのは、そういう教会への憂いの気持ちからだった。

日本語に翻訳もされている自身の裁判での最終陳述の言葉回想録を紐解きながら、福音、信仰が自分の人生を大きく変えたことを話した。幼い頃に両親を亡くし、靴磨きなどをしながら生計を立て、ホームレスのような生活の中で福音に出会った。イエス・キリストを信じ、19歳の時に香港に来て神学校で学ぶ機会が与えられた。ルカによる福音書に登場する徴税人のザアカイにも言及し、福音によって人生が大きく変わることをこう話す。

「信仰は『自分中心』という思いを消し去り、愛に生きる人へと変えます。これこそが神さまの救いの結果です。信仰が愛を生み、その愛が人々への奉仕へとつながり、社会的な行動へとつながっていくのです。信仰は社会の格差や不正に立ち向かう力となるのです」

また、チェコの劇作家ハヴェルが語った「一人一人は小さな光であっても、その光は足元を照らし、前に進むことができる。そして、多くの人がその小さな光を灯して集まってくる、そうして集まった光がこの世の闇を照らすことができる」を引用し、山上の説教で語られた「あなたがたは地の塩・世の光です」はキリスト者にとって非常に大切なことだと力を込めた。社会の闇に出会い、どの方向に進めばよいか迷ったとき、イエス・キリストの生涯が答えを与えてくれるだろうと語った。

続いて、「私たちは、何事も真理に逆らってはできませんが、真理のためならばできます」(コリントの信徒への手紙二13章8節)を引用し、「私たちキリスト者は真理のために証しすることをしなければならない。その『証しする』という言葉には『殉教する』という意味が含まれる」と述べた。1980年代の英国で出された法案が司祭も含めた市民たちの手によって廃案となった事例を挙げながら、教会内にも警察が介入してくる香港の現状を嘆きつつも真理のために証し続けることを強調した。

最後にドイツの詩人ハイネが「書物を焼くものは、早晩、人間を焼くようになった」を引用し、メディアに言論の自由がなければ信教の自由もないことを述べ、こう締めくくった。

「全ての神学は行動するもの。もし、自分を中心とする信仰ならば、そこに宗教性はありません。日本の牧師の皆さん、兄弟姉妹の皆さん、研究者の皆さん、香港のために祈ってください」

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