安倍晋三元首相の銃撃事件から7月8日で2年を迎え、宗教2世らでつくる団体「宗教2世問題ネットワーク」は同日声明を発表した。
声明は、この2年の間に国が行ってきた施策のほとんどが、「献金被害の防止等を目的としたものや、既存の法令や施策の活用に留まるもの」であるとし、「事件から2年が経過してもなお、数多くの子どもが宗教団体の主導の下、身体的虐待、心理的虐待、性的虐待、ネグレクト、さらには経済的・肉体的搾取等、筆舌に尽くしがたい被害に苦しみ、その権利を蹂躙され、人生そのものに不可逆的な悪影響を及ぼされてきた宗教2世問題は、根本的な解決には程遠い」と指摘。宗教2世問題は過去の問題ではなく現在進行形の重大な人権侵害であると強調した上で、支援と防止の両面からの具体的な取り組みを求めるとともに、宗教2世への支援とは別に、子どもの福祉を害する宗教団体への対応を可能とする法整備等に向けた議論も開始するべきだと訴えた。
声明の全文は以下の通り。
安倍元総理銃撃事件から2年を迎えるに当たっての声明
本日、安倍元総理銃撃事件から2年が経過しました。
改めて、旧統一教会に関する問題や、宗教2世問題が顕在化する契機となってしまった銃撃事件において、凶弾に倒れた安倍元総理のご逝去を悼み、心よりご冥福をお祈りいたします。
この2年の間に、厚生労働省(現こども家庭庁)による「宗教の信仰等に関係する児童虐待等への対応に関するQ&A」の発出、法テラスによる霊感商法等対応ダイヤルの開設、不当寄附勧誘防止法等の成立、旧統一教会への解散命令請求、「旧統一教会」問題に係る被害者等への支援に関する関係閣僚会議の開催等、明確な刑法違反が認められない限り、宗教に関する問題への対応に消極的だった国の姿勢にも、一定の変化が認められました。
しかしながら、これらの施策のほとんどは、献金被害の防止等を目的としたものや、既存の法令や施策の活用に留まるものです。つまり、事件から2年が経過してもなお、数多くの子どもが宗教団体の主導の下、身体的虐待、心理的虐待、性的虐待、ネグレクト、さらには経済的・肉体的搾取等、筆舌に尽くしがたい被害に苦しみ、その権利を蹂躙され、人生そのものに不可逆的な悪影響を及ぼされてきた宗教2世問題は、根本的な解決には程遠いのが現状です。
先日、こども家庭庁が発表した、「保護者による宗教の信仰等に起因する児童虐待に関する調査研究報告書」によれば、最近の事例に限定した調査であったにも関わらず、多数の児童相談所が、保護者による宗教の信仰等に起因する児童虐待に対し、一時保護を伴う対応を取っていたことが判明しました。学校への調査では、子どもが宗教の布教活動等に従事させられたり、日常生活や学校生活を制限させられたりする等、子どもの権利が侵害されている事例が多数確認されています。また、医療機関への調査では、輸血を理由に骨髄移植を拒否し、13歳の子どもが死亡した事例も確認されました。
当団体が旧統一教会への解散命令請求に当たっての声明にて指摘した通り、宗教2世問題は解決した過去の問題ではなく、今なお声を上げられない多くの子ども・若者がもがき苦しんでいる、現在進行形の重大な人権侵害であることが、国が実施した実態調査でも明らかとなった形です。
当該報告書においては、「宗教」という言葉の入った相談窓口の周知、社会的養護経験者への支援と同様に、進学や就職、自立して生活するための支援等、宗教2世の自立をサポートする制度や仕組みの充実等が提言されました。岸田総理や加藤こども政策担当大臣が、当該調査結果に基づき、今後の対応を検討する旨の発言をされていることに鑑みても、国は自らが実施した調査により提言された施策について、速やかに実施する必要があります。
また、宗教2世への支援とは別に、子どもの福祉を害する宗教団体への対応を可能とする法整備や体制整備も、宗教2世問題を防止する観点から、避けては通れません。国は速やかに、当事者を交え、法整備等に向けた議論を開始するべきです。
昨今、宗教2世問題に関する報道は著しい減少傾向にあり、世論の関心が薄れたのを境に、行政の対応も停滞しているとの印象を否めません。国は旧統一教会への対応一つ取っても、宗教法人法にて解散命令請求の要件とされる「法令違反」に民法は含まれないといった、理解に苦しむ法令解釈を長年にわたり主張し、被害の拡大に寄与してきました。
国には、宗教2世問題に積極的に対応する責任があり、国が宗教2世問題に対し後ろ向きな姿勢を取ることは、決して許されません。当団体は国に対し、宗教2世問題の根本的な解決に向け、支援と防止の両面から、具体的かつ効果的な取り組みを速やかに進めることを強く望みます。
2024年7月8日
宗教2世問題ネットワーク