今年9月1日は、関東大震災100周年の日にあたり、世界各地において震災犠牲者を哀悼する行事が開催された。韓国では、地震自体よりも地震直後に発生した軍隊・警察・自警団による数千人に上る朝鮮人の虐殺事件に関心が向けられ、8月末から9月初めにかけて虐殺関連のニュースがトップを飾り、真実究明を求めたり、犠牲者を追悼したりする行事が各界各層で行われた。
キリスト教界においても、追悼礼拝や展示会、学術大会、追悼像の除幕式、関連法案の制定を求める集会など多様な行事が続いた。
朝鮮人虐殺に対する韓国キリスト教界の関心は、韓国基督教長老会(基長)所属の金鐘洙(キムジョンス)牧師が2008年に真相究明を求める活動を初めて以来喚起され続け、金牧師が組織した「1923韓日在日市民連帯」や「記憶と平和のための1923歴史館」(忠清南道天安市)を通して、少しずつ関心の輪が広まりつつあった。そのような中、100周年を迎えた今年に関心が一気に高まったわけである。以下、関連行事の一部を紹介したい。
今年6月、韓国基督教教会協議会と基長が関東虐殺100周忌追悼講演会をソウルで開催した。同講演会には、日本キリスト教協議会(NCC)の金性済総幹事も参席し、大虐殺の恐怖がなくなっていない現在にあって、虐殺の歴史を忘却しないことが重要であることを指摘した。
8月25日には、忠南NCC正義平和委員会と基長教師会の共催で関東虐殺100周忌追悼礼拝が開催された。礼拝の中で金鐘洙牧師は、「関東大虐殺の歴史が歴史否定の闇の中に意図的に葬りさられた石のように扱われたとしても、キリストはここに立っておられる」とし、虐殺事件に対してキリスト者が関心をもつことを訴えた。
9月2日には、韓国キリスト教歴史学会が「関東大震災100年と韓日キリスト教」とのテーマのもと学術シンポジウムを開催した。同シンポジウムでは、金廣烈(キム・グァンヨル)氏(光云大学名誉教授)が基調講演を行い、虐殺事件の発生に大きな責任を負っている日本政府がそのことを無視している状況にあって、日本国内の進歩的知識人や市民らの活動や韓国政府による持続的な関心の表出が重要であることを指摘した。また、成周鉉(ソン・ジュヒョン)氏(青巌大学教授)が「関東大震災に対する国内宗教界の認識と対応」、李相勲(イ・サンフン)氏(関西学院大学准教授)が「日本キリスト教界の関東大震災歴史記述についての立場の考察」、洪伊杓(ホンイピョ)氏(山梨英和大学准教授)が「韓日キリスト教知識人の関東大震災認識と対応」との題目で各々研究発表を行った。
成氏は、地震直後に朝鮮各地において宗教者らが救済義捐金を募金したが、キリスト教が最も積極的であったことなどを明らかにした。李氏は、戦前および戦後に日本において出版されたキリスト教界の新聞・雑誌および個教会史・キリスト教主義学校の学校史における記述を調査し、特に個教会史や学校史においては、軍隊や警察が虐殺の主体であったことへの言及が皆無であることなどを指摘した。洪氏は、朝鮮人虐殺に対するキリスト教知識人の認識を四つに類型化し、柏木義円や吉野作造などが虐殺に批判的な発言をした一方、内村鑑三や植村正久などが保守的・排他的態度をとったことを批判的に指摘した。
9月6日には、ソウル市鍾路区の旧日本大使館前で基長の「教会と社会委員会」などが主催して関東大震災朝鮮人虐殺100周忌追悼祈祷会が開催された。基長側はその日、追悼像である「母の祈祷像」を「平和の少女像」の横に設置する予定であったが、保守団体の反対などがあり、除幕式を行うことができなかった。追悼像は、翌7日に韓神大学のキャンパス内に設置された。
このような一連のキリスト教界の行事を見ると、①日本政府が虐殺の国家責任を認めること、②日韓の市民がより強く関心を持つべきこと、③韓国政府は沈黙を止め、究明運動に乗り出すことといった三つの共通した主張を行っていることが分かる。これは、一般の市民団体の主張とも共通するものであるが、キリスト教界はこれに加え、イエスの教えとキリスト者としての責任を強調している。
虐殺事件の責任を持続的に追及してくためには、この時代を生きる私たちキリスト者一人ひとりの役割が大きいように思われる。
李 恵源
い・へうぉん 延世大学研究教授。延世大学神学科卒業、香港中文大学大学院修士課程、延世大学大学院および復旦大学大学院博士課程修了。博士(神学、歴史学)。著書に『義和団と韓国キリスト教』(大韓基督教書会)。大阪在住。