化学者が案内する聖書と動物の心躍る世界
〈評者〉上田恵介
聖書の動物よもやま話
堀内 昭著
A5判・254頁+口絵6頁・定価2200円・教文館
聖書は古い書物である。舞台は地中海の周囲、イスラエルとその周辺地域である。聖書が書かれたその時代、人々と動物との距離は、今の時代よりはるかに近かっただろう。聖書に登場する動物たちを見れば、当時のこの地域に住んでいた人々の動物に対する見方がよくわかる。
著者の堀内さんは立教大学理学部での私の同僚で、大学も先輩なので、専門分野こそ異なるものの、赴任当初から親しくさせていただいた。その堀内さんが聖書の動物というテーマでこの本を書かれた。堀内さんは有機化学の研究者だし、大学での講義も専門分野の講義だったから、彼が動物に興味をお持ちだったとはこれまで知らなかった。
本書は四つの章に分けられている。最初の章が「家畜・人間のそばにいるもの」で、私たちの身近にいたヒツジ、ロバ、ウマ、ウシ、ブタ、そしてラクダも登場する。中近東の人々にとって、ラクダは生活に必要不可欠な家畜であった。よく登場する動物もあれば、あまり出てこない動物もある、ヒツジは神への生贄としてよく出てくるが、ネコは一回しか登場しない。
次の章の「地の獣」で野生の獣たちが登場する。舞台が地中海周辺であることから、出てくる野生動物の種類は限られるが、シカやウサギはもちろん、サルやヒョウやトラも登場するのは当時の人々の交流の範囲がアジア、アフリカにまで広がっていたことの現れだろう。