動画配信サービスのNetflixにおいて8編からなるドキュメンタリーが公開された今年3月3日以降の韓国では、「キリスト教系カルト」が話題の第1位に浮上している。公開直後から瞬く間にNetflixのテレビ番組トップテンの第1位となり、大きな社会的関心の的となって以来、1週間以上もの間、関連記事が次々と出されている。「私は神である:神に裏切られた人びと」(日本での題名=すべては神のために:裏切られた信仰)と題したドキュメンタリーについての話である。
このドキュメンタリーは、韓国で生まれた四つのキリスト教系カルトの犯罪行為について扱っているが、その四つとは、キリスト教福音宣教会(JMS、摂理)、五大洋、アガドンサン、万民中央教会のことである。これらは、1980~90年代あるいは2000年代から、集団自殺・労働搾取・死体遺棄・性的暴行・横領などを引き起こしたことによって社会的に指弾され、ニュース報道や時事番組に常連のように登場していたこともあるので、同時代を生きてきた私たちの世代には特に新しいものではない。
にもかかわらず、同ドキュメンタリーが注目された理由は、被害者らが命がけで新しい証言を行っていることや、これらのカルト団体が今でも活動を続けており、司法界や芸能界など社会の隅々にまで深く浸透していることを明らかにしているからであろう。また動画配信サービス用に制作された作品であることもあり、煽情的な面で話題になったこともその理由の一つとして挙げることができよう。
韓国キリスト教界の反応はさまざまである。上記四つの団体はカルトであり、自分たちとは何の関係もないとする「線引き論」、韓国にキリスト教系カルトが多いことには一定部分教会の責任もあるとする「部分責任論」、問題の核心は先鋭的な信仰のあり方であるとする「狂信批判論」などである。
筆者が大学院生だったころ、世界の新宗教についての授業を履修したことがあった。ある日、米国のある新宗教について学んでいた際、「一体どうすればこんな突拍子もない教理を信じられるのだろうか」とため息交じりに声を出すと、授業の担当教授は次のように筆者らに述べた。「2000年前に地球の反対側にある小さな村で生まれた人が、自分の罪の代わりとなって死んで復活したという話を信じている私たちのような人たちもいるんですよね」
「狂信」であれ、「迷信」であれ、人の信仰を咎めることはできない。結局、問題は信仰の対象が何であるかということではないだろうか。今回の状況を踏まえ、ハンギョレ新聞の宗教専門記者であるチョ・ヒョン氏は、「カルト宗教識別法」という記事を書き、イエスや仏陀は自らの欲望をなくそうとしたが、カルトの教祖らは自らの欲望を満たすことを目的としていると主張している。
しかし、私たちキリスト者がイエスに倣って自らを無にしてきたかと問われれば、答えに窮しはしないだろうか。韓国では、牧師の退職金が10億円や20億円にもなるということで社会的波紋を呼んだソウルのいくつかのメガチャーチに関する記事や、差別禁止法に反対し、マイノリティ差別を正当化する教会に関する記事などがここ数年間絶えず新聞の社会面を賑わしてきた。キリスト教にはカルト拡散の責任がないと言えるかは疑わしいであろう。
韓国には現在、再臨したイエス、すなわち生きたメシアが少なくとも100名はいるとのジョークもある。ご存じの通り、韓国のキリスト教系カルトは現在、海外にも広がっている。今回のドキュメンタリー制作にも関与した韓国のカルト専門家である卓志一(タク・チイル)教授(釜山長神大学)は、韓国基督公報とのインタビューにおいて、これを機に「グローバルなカルト対策のネットワークを築いて対処していかなければならない」と語っている。今回のドキュメンタリーを機にアジア諸国間において、カルト対策に関する論議がより活発になることを願うものである。
李 恵源
い・へうぉん 延世大学研究教授。延世大学神学科卒業、香港中文大学大学院修士課程、延世大学大学院および復旦大学大学院博士課程修了。博士(神学、歴史学)。著書に『義和団と韓国キリスト教』(大韓基督教書会)。大阪在住。