映画「ファイナルアカウント 第三帝国最後の証言」(監督と撮影:ルーク・ホランド、8月5日公開)は、ナチス支配下のドイツ「第三帝国」が犯した人類史上最悪の犯罪「ホロコースト」の加害者側の証言と当時の貴重なアーカイブ映像を記録した貴重なドキュメンタリー。終戦から77年を迎えた今、晩年を迎えるナチスドイツの子どもたちが真意を語る。
登場するのは、武装親衛隊のエリート士官から、強制収容所の警備兵、ドイツ国防軍兵士、軍事施設職員、近隣に住む民間人ら16人で、ユダヤ人大量虐殺「ホロコースト」を実際に目撃した、生存する最後の世代だ。ナチス政権下に幼少期を過ごし、そのイデオロギーを神話とするナチスの精神を植え付けられて育った彼らが語るのは、ナチスへの加担や、受容してしまったことを悔いる言葉だけでない。「手は下していない」という自己弁護や、「虐殺を知らなかった」という言い逃れ、果てはヒトラーを支持するという赤裸々な本音だ。
元武装親衛隊中尉は、エリートは虐殺に関わっておらず、親衛隊を犯罪組織としたのはニュルンベルグの国際軍事裁判で、ドイツの法廷ではないから自分は認めないと悪びれずに話す。さらに、軍隊での勲章を誇らしげに見せるその姿からは、ヒトラーへの敬意さえ感じられる。もちろん、言葉には出さないが、そこには、ホロコーストを他人事として考えることで、第三帝国での栄光を肯定しようとする老人の姿があった。
その一方で、自らを「殺人組織」に加わっていたことを恥じていると語り、ベルリンの歴史的なヴァーゼン湖畔の邸宅(1942年にホロコーストを発表した場所)で、自らの体験をもって若者たちと対話をする元武装親衛隊員もいる。しかし、若者たちは、彼の話に納得しなかったり、怒り出したりするのだ。そのシーンは、劇中に登場するどの高齢者の証言よりも衝撃的だ。いくら戦争の悲惨さを訴え、「目をくらませるな」と伝えても、利己主義的な祖国愛の前ではその思いはかき消されてしまうことを思い知らされる。
証言者たちの発言から、「ユダヤ人は匂いでわかる」とか、「商売上手でかぎ鼻」などのヘイトスピーチさながらの言葉が出てくるのは、反ユダヤ人主義が日常として身についていたからだろう。さらに心を重くするのは、ユダヤ人に対する「無関心」だ。1983年に起きた「水晶の夜」と呼ばれる反ユダヤ主義暴動では、約1400ものシナゴーグが焼かれたが、証言者の1人は「シナゴーグが焼かれたのを見ても胸が痛むことはなかった」という。そして、「知らなかった」という言葉。無関心だったから知らなかったのか、知らないから無関心なのか・・。どちらにしても、無関係な人に対する人間の冷たさは、決して当時のものだけではない。現在起きている国内外の非情な出来事が頭をよぎる。
イギリス出身のドキュメンタリー監督ルーク・ホランドは、10代になったはじめて、母親がウィーンからのユダヤ人難民で、祖父母はホロコーストで殺害されたというルーツを知った。同作は2008年にプロジェクトを立ち上げ、10年以上の歳月をかけて監督自らが250以上のインタビューを行っている。13年には、骨髄腫とB細胞リンパ腫と診断されながらもインタビューを続け、戦争における責任や、負うべき罪を問いかけた。監督は次のように語っている。
この映画は、最も文字通りの意味で、インタビューに応じた人々が、彼らの特別な視点から何が起こったかを語る「最後の機会」という役割を果たしました。……想像を絶する恐怖に身を投じた多くの人々と話すうちに、私は、なぜ人はこのようなことをしながらも人間であり続けることができるのだろうかと考え続けました。この疑問は、今でも簡単に答えられるものではありませんし、これからも問いかけ続けなければならないと思っています。
こう語ったホーランド監督は、同作完成直後の20年6月10日に71歳で亡くなった。念願だったヴェネツィア国際映画祭への出品も決まった直後でもあった。
2020年製作/94分/アメリカ=イギリス
配給/パルコ ユニバーサル映画
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