NCCが入管庁の最終調査報告書に抗議 「人道的な入管体制」を要望

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 スリランカ出身のウィシュマ・サンダマリさん=写真=が名古屋出入国在留管理局の施設で収容中に死亡した事件をめぐり、法務省出入国在留管理庁(入管庁)が最終調査報告書を公表したことを受けて、日本キリスト教協議会(NCC、金 性済総幹事)、および同在日外国人の人権問題委員会(李明生委員長)、東アジアの和解と平和委員会(飯塚拓也委員長)は8月19日、報告書に抗議する声明を発表した。

 声明は、報告書に「全職員の意識改革」や「医療体制の強化」などが挙げられているものの、ウィシュマさんを死に至らしめた重大な問題が見落とされていると抗議。「在留資格喪失者にも保障されるべき『身体の自由』を奪い、恣意的拘禁に相当する点」が問い直されていないこと、「名古屋入管による専断的な対応によって健康の窮状からの改善を願い仮放免申請することの司法審査を受ける権利が……はく奪されていた事実」「事態の深刻さを、DV防止法に基づく入管のDV措置要領に従い、DV専門家をもって真剣に取り扱うことを明らかに怠っている」点などを問題視した。

 また彼女の死が、「本人のいのちの尊厳を甚だしく傷つけ、人権を踏みにじった事態であり、それは日本社会ばかりでなく、世界に日本の入管体制がいかに人権感覚を喪失し、国際人権条約の基準を逸脱しているかを白日の下にさらすこと」になったと指摘した上で、入管庁が「政府の締結した国際法規を『誠実に遵守する』ことを謳う憲法第98条2項に立ち返り、日本の入管体制の、とりわけ長期収容主義を改め、被収容者に対する人道的な取り扱いと仮放免申請に関する司法審査権を明確に保障すること」を強く要望した。

 全文は以下の通り。


ウィシュマさん死亡に関する最終調査報告書の内容に抗議します

内閣総理大臣 菅義偉 様
法務大臣 上川陽子 様
出入国管理庁長官 佐々木聖子 様

 「あなたは寄留者を虐げてはならない。あなたたちは寄留者の気持を知っている。あなたたちは、エジプトの国で寄留者であったからである。」(出エジプト記23章9節)

 今年3月6日、スリランカ出身のウィシュマ・サンダマリさんが名古屋入管収容中に、悪化する健康状態のゆえに医療の助けを求めたのにかなえられず死亡する事件が起こりました。その衝撃は、市民社会の大きな批判が向けられていた出入国管理法の改定案が5月18日には廃案に追い込まれることにも計り知れない影響を与えたと考えられます。ウィシュマさんの死の真相解明を遺族が訴えた結果、去る8月12日に、6か月余りに及ぶ収容生活のビデオ記録を2時間に編集したものが遺族に公開されましたが、彼女らは堪えられず、見はじめて1時間後には慟哭しながら法務省を後にすることになりました。

 このビデオ公開に二日先立つ8月10日には、ウィシュマさんの死亡に関する最終調査報告書(以下、報告書)が出入国管理庁によって公表されました。この報告書には、「全職員の意識改革」や「医療体制の強化」などが挙げられていますが、ウィシュマさんを死に至らしめた重大な問題が見落とされていることに、わたしたちは抗議します。

 第一に、入管法52条に基づく、被収容者の無期限収容の本質的な問題は、日本が遵守すべき自由権規約第9条1項の、在留資格喪失者にも保障されるべき「身体の自由」を奪い、恣意的拘禁に相当する点について、報告書においては全く問い直されていません。

 第二に、昨年8月21日に名古屋入管に収容されて以来、3月6日に死亡するまで、ウィシュマさんが今年1月4日に仮放免申請をしたのにもかかわらず不許可となり、甚だしく健康を損ねた状態で2月22日にも申請しましたが、許可を受けられないまま、ウィシュマさんは死に至ることとなりました。このように、ウィシュマさんの死の背景には、名古屋入管による専断的な対応によって健康の窮状からの改善を願い仮放免申請することの司法審査を受ける権利がウィシュマさんからはく奪されていた事実があります。これは自由権規約第9条4項違反です。

 第三に、医療による救済を求めたウィシュマさんに対して報告書で、「一度、仮放免を不許可して立場を理解させ、強く帰国を説得する必要あり」(58頁)とした入管職員の判断は、収容という措置を、彼女をして帰国を選択させるための、まるで拷問的手段のように選択していることを意味していると言うほかなく、人間としての感性を著しく喪失した事態と言えます。

 第四に、ウィシュマさんが警察に出頭した背景には、DVからの保護があったにもかかわらず、名古屋入管も報告書においても、その事態の深刻さを、DV防止法に基づく入管のDV措置要領に従い、DV専門家をもって真剣に取り扱うことを明らかに怠っています。

 この度のウィシュマさんの死は、彼女本人のいのちの尊厳を甚だしく傷つけ、人権を踏みにじった事態であり、それは日本社会ばかりでなく、世界に日本の入管体制がいかに人権感覚を喪失し、国際人権条約の基準を逸脱しているかを白日の下にさらすことになりました。

 以上の諸点について断固抗議するとともに、わたしたちは、法務省出入国管理庁が、政府の締結した国際法規を「誠実に遵守する」ことを謳う憲法第98条2項に立ち返り、日本の入管体制の、とりわけ長期収容主義を改め、被収容者に対する人道的な取り扱いと仮放免申請に関する司法審査権を明確に保障することを、ここに強く要望するものであります。

2021年8月19日
日本キリスト教協議会 総幹事 金 性済
在日外国人の人権問題委員会委員長 李明生
東アジアの和解と平和委員会委員長 飯塚拓也

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