【東アジアのリアル】 オンライン化がもたらす中国家庭教会での変化 遠山 潔

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新型コロナウイルスが蔓延し始めてから1年が経つ。感染者は世界で1億人を超えた。世界中が激変を目の当たりに見る1年であった。1年前の中国の家庭教会も礼拝や諸集会を急遽オンラインへと移行し対応した。そのオンライン化の流れは今でも止むことはない。そのような中、興味深い現象が起こっていることに気付いた。

自宅でオンライン礼拝、オンライン祈祷会、そしてオンライン神学講座に熱心に励むある姉妹が教えてくれた。このコロナ禍で未信者の夫に変化が表れているというのだ。今までキリスト教信仰に興味をあまり示さなかった夫だが、ネットを通して聞こえてくるさまざまな内容に耳を傾け興味を示すようになったという。神学講座で語られる神学の基礎とそこで繰り広げられる議論に傾聴するようになった。最初は妻に遠慮してコンピューターの画面には映らないように、少し距離を置きながら遠目に眺めていたそうだ。しかし、時が経つにつれ、妻の後ろに陣取るようになり、画面にも映るようになった。話に聴き入っていたのである。そして妻との会話の中で、神学議論が巻き起こることが日常的になったという。

もっとも信仰をもつまでにはまだ相当時間がかかるようだ。この姉妹はそう語る。中国大陸で、中年男性がキリスト教信仰に導かれるのは容易ではない。今まで受けた教育や知識、過去の見聞がさまざまな障壁となっている。前述の姉妹はそう語った。神学講座で「科学と信仰」について議論された時が最も関心を示していた時のようだ。そして、科学的見地が重宝される現在の中国社会とその環境の中で、信仰をどう理解し捉え言語化するか、このことが伝道における一つの鍵だ。そう彼女は熱弁した。

アメリカ在住の神学者、王志勇は自著『基督教文明論』(2017年)においてキリスト教の文化的影響力とその課題について言及する。彼は、中国の教会もキリスト教の文化を保持し、社会へと影響を及ぼすべきだと考えている。そのためには中国のキリスト者が創造性を維持しつつ、正統神学を中国の伝統的文化という枠組みの中で語り直す必要があると強く勧める。そしてそこでは一人ひとりの心の変化と品格の更新が伴うことが極めて重要だと主張する(444頁)。まさにこれこそが中国の家庭教会に与えられている大きな使命であり、そのために神学が不可欠なのだと力説する。

実態を正確に把握することはほぼ不可能であるが、中国の家庭教会に属する相当数の兄姉が神学的研鑽を積むためにオンラインで受講し、励んでいる。コロナ禍においては神学研究のオンライン化が急伸しているのだ。なぜ、そこまで熱心に学ぶのか。彼らは口々に言う。

「我々は神学を語り直さなければならない。現代人に伝わるように、彼らの関心を引き起こすために、新しい言葉によって語られなければならない。これからの教会を担うのは我々だ。神は我々にみ言葉を通して真理を啓示された。そして我々の代への使命として、神学的な構築と新たな語り直しを導いておられるのだ」と。

以前は沈鬱な表情をしていた前述の「夫」であるが、オンライン神学講座に関心を示したことから、この世代の人々へのアプローチに光が見えた気がする。それは大きな挑戦であるが、同時に、新たな神学的言語化の試みを急速に広げる可能性になる一つの要素となるであろう。オンライン化によって確実に何かが変化しつつある。しかし、その動きに中国の兄姉は応答している。いつも思うのだが、彼らの思考の柔軟さには多くのことを教えられる。

遠山 潔
 とおやま・きよし 1974年千葉生まれ。中国での教会の発展と変遷に興味を持ち、約20年が経過。この間、さまざまな形で中国大陸事情についての研究に携わる。国内外で神学及び中国哲学を学び修士号を取得。現在博士課程在籍中。関心は主に中国の教会事情及び教会の神学発展についての諸問題。趣味は三国志を読むこと。

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