クラスターの中で改めて考えた「共にに生きる」こと JOCS派遣ワーカー・雨宮春子さんの報告

世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会が主催する新春学習会「Withコロナを生きぬく慈しみの実践」が1月25日、オンラインで開催された。その中で行われたパネルディスカッションに、日本キリスト教海外医療協力会(JOCS)タンザニア派遣ワーカー・助産師の雨宮春子(あめみや・はるこ)さんがパネリストとして参加し、現地の報告と、昨年5月に新型コロナウイルスのクラスターが発生した札幌市の医療施設での看護体験を語った。

雨宮春子さん

雨宮さんは、小学生の時に参加した教会のサマーキャンプで、発展途上国で活動する人の話を聞き、将来の夢として発展途上国に携わりたい思うようになり、そこで活かせる資格として、看護師・助産師を目指すようになった。看護師を6年、助産師を約9年重ねたのち、2019年1月に、JOCSの海外派遣ワーカ ーとして、タンザニアに派遣。3ヶ月語学研修(スワヒリ語)の研修後、タンザニア・タボラ州にて活動を開始した。

JOCSは、1960年に設立されたNGO団体で、キリスト教の教えのもと、「医療を通じて愛を世界へ」をテーマに、国や宗教の違いを超えて、貧しく弱くされた人たちの健康命を守る活動を行なっている。雨宮さんは、JOCSがタンザニアで行なっている協働プロジェクト「ママ・ナ・ムトトプロジェクト (お母さんと赤ちゃんを守る活動)」に参加。活動先であるタボラ州カリウアは、タンザニアの中でも医療水準は低く、保健医療が行き渡っていない貧しい地域の一つだ。そこで暮らす子どもたちが、栄養失調や感染症などで、常に命の危険にさらされていることを話した。

現地で、栄養失調児のケアや、妊婦などに栄養指導など活動をすすめる中、昨年4月、新型コロナウイルス感染拡大により日本外務省からアフリカ在住者の避難勧告が出て、日本へ緊急帰国することになる。その後、クラスターが発生した札幌市の介護老健保健施設で、看護師が不足していることを知り、すぐに看護師として緊急支援に入った。1回目に従事したのは100人余りが入所する介護老人保健施設で、ちょうど北海道が新型コロナの第二波に見舞われていた時期だった。

その施設は、4月28日にクラスターが発生したことが認定され、雨宮さんが支援に入った5月3日には、多くの利用者と職員が感染し、50人いた医療介護者は11人に減り、もともとその職場で働いていた看護師は0人になっていた。雨宮さんは、当時の印象を次のように話す。

「看護も介護も崩壊している状態でした。医療機器や、医療従事者が整っていない状況で、新型コロナの重症者を看護しなければならない状態は、まるでタボラ州と同じではないか、ここは本当に日本なのだろうか。それが支援に入った初日の私の印象でした」

仕事を始めたわずか数時間後に一人の人が亡くなってしまう。雨宮さんは、救うことができない虚しさと怒りが込み上げてきたと明かす。また当時は、新型コロナで亡くなった人は、遺骨になってからでないと家族の元には帰れなかったため、最後の姿を見送ることができたのは雨宮さんたちだけだったという。その後は、助けられる命に全力を尽くすこと、そして、助けることができなかった命を──家族と顔を合わすことができない代わりにはならないが──そのかけがえのない命に向き合って、心から見送ることが大切な役割の一つとなっていたことを語った。

10日の間、100人ほどの施設利用者を介護士さんと協力しながら看護し、10人の人を看取ることになった。その時のことをこう振り返る。

「介護職の中には、自分が帰ることで、家族が周囲からから差別を受けてしまうからと、数日間車の中で生活されていた人もいます。『コロナは怖いけれど、利用者さんを見捨てることはできない』と私に話してくれた介護職の人もいました。そうした思いが過酷な勤務のなかで彼ら彼女らを支えていました。

 施設内に取り残された人は、職員も、入所者も絶望的な表情をしていました。『私たちはどうなるの?私たちは見捨てられたの?まだ死にたくない』そのような切実な思いを聞きました。私にできることは、入所者さんたちの手を握り、私は一緒にいます、という気持ちを伝えることでした。改めて、共に生きるということを考えさせられた瞬間です」

最後に、5年前に亡くなった父・雨宮大朔さん(日本聖公会北海道地区牧師)から教えられた「死をおもてなしする心」を紹介した。これは、死と隣り合わせにあるカリウアの人々と共に生きる中で、そして、今回のクラスターの中で共に生きる中で、雨宮さんを支え続けた言葉だ。

助産師として立ち合う「母と子」「母体 と胎児」の生と死。 死産もある、流産もある、母体保護のた めの堕胎だってある。 その時こそ、限りなく尊くまた慈しみに あふれる御手に育まれたその命の死を、 心からおもてなししなければならない。 その母親への神の愛の故に。生れ出ることができなかった神の命の痛みの故に。心と体の芯から、また心底から、春子 の命を「生きた、聖なる供え物」とし て、目の前に差し出しつつ、死をおもてなしすること。

雨宮さんは、昨年11~12月にもクラスターが発生した特別養護老人ホームで看護師として従事。 現在 はタボラ州への再赴任に向けて準備中だ。

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