日本福音ルーテル熊本教会(熊本市)が19日、国の登録有形文化財になることが決まった。国の文化審議会が柴山昌彦(しばやま・まさひこ)文部科学相に答申し、秋にも答申どおり告示される予定。登録有形文化財には、保存に必要な費用の一部が国から補助される。
同教会は、米国出身の建築家ウィリアム・メレル・ヴォーリズが晩年に設計した木造2階、一部3階建て。教会らしいミントグリーンの三角屋根に八角形の尖塔が左側にあるのが特徴で、塔や聖堂の入り口は尖頭アーチで統一されている。また2階にある礼拝堂は、主廊部の南側にのみ側廊がつき、「ハンマービーム・トラス」という柱のない広い空間を作るための構造になっている。アーチ状の梁(はり)を、左右の突き出した支柱が支える工法だ。ヴォーリズ建築でこの構造を持つ国内建造物は同教会を含めて3軒のみ。敷地660平方メートル、建築面積219平方メートル、延べ床面積約445平方メートルと、ビルの谷間にあって決して大きな教会ではないが、戦後のヴォーリズの教会建築に共通した、簡素でありながら、優しく美しい礼拝堂となっている。
「国の登録有形文化財となるためには、建設から50年以上経っていること、建物が特徴的であること、地域に認知されていることの3つの条件が備わっていなければなりません」。そう話すのは同教会牧師の杉本洋一(すぎもと・よういち)さん(67)。実は3年前に一度、登録有形文化財への申請を出しており、文科省などの調査も行われていたが、2016年4月に発生した熊本地震により多大な被害を受け、たち切れ状態になっていた。
地震は2回あって(14日と16日)、1度目は2階の礼拝堂の天井が落ち、十字架も床に落ちてしまった。それを何とか元に戻したところ、2度目の地震が発生し、会堂全体に大きなダメージを受けた。杉本さんは当時の様子を振り返る。
「教会は牧師館と離れているため、生活の場ではないということで被災証明も出ず、補修の順番も後回しになってしまい、登録有形文化財の申請どころではありませんでした。それがある時、東京から被災地を元気づけようということで、この教会堂でコンサートを行うことになりました。すると、壊れかけた礼拝堂にもかかわらず、250人もの人が集まったんですね。それを見て、改めてこの教会が地域に愛され、必要とされていると感じました。それと同時に、こんなに大勢の人が礼拝堂に上がってもビクともしなかったことに驚きました」
その後、1年かかって全体の修繕を終え、その間に立ち切れとなっていた登録への申請も進め、今回の決定に至った。「今回、登録されたことで、これまであまり気にかけてこなかった内装(電灯やコンセントなど)も建物の雰囲気を壊さないものにし、市の財産として大切に守っていきたい」と話す。
同教会は、1898年に創設されてから昨年120周年を迎えたばかり。会堂が現在のこの地に建てられたのは1905年のこと。45年7月の熊本大空襲で教会堂が焼失し、50年に現在の教会堂が再建された。熊本の中心部である水道町交差点のすぐそばにあることから、熊本市民からは「水道町教会」と呼ばれて親しまれてきた。
大地震を経ての今回の登録。最後に杉本さんは次のように思いを語った。
「新しく建て直すよりも、それまで地域の人や信徒たちに愛されてきたものを守り続けたことに価値があると思います。この教会を誇りに思います」