【ハタから見たキリスト教】 〝ニセ科学もカルト宗教も楽しんで免疫を作る〟 山本 弘 Ministry 2015年8月・第26号

 『ニセ科学を10倍楽しむ本』で、「創造科学」や「インテリジェント・デザイン(ID)論」にも鋭いメスを入れた山本弘さん。「と学会」の会長としても、長く研究・執筆活動に勤しんできた。「ムー」誌に宗教ネタがあふれるように、中二的関心からキリスト教に魅力を感じる人々も少なくない。そんな、宗教とオカルトとの関係についても、熱く語ってもらった。皆さんもご一緒に、魅惑の「トンデモ」世界へ……。

オカルトからキリスト教へ いじめ体験から差別問題へ

――宗教やオカルトとはどういう接点が?

昔から超常現象には興味を持っていて、オカルト関係とかUFOの本をたくさん買っていたんです。すると、どうしても宗教の問題に行かざるを得ない。キリスト教の本もいろいろ読むようになって、最終的には『神は沈黙せず』を書くに至りました。この話は、旧約聖書のヨブ記が元になっているんですが、信徒の方はヨブ記をどう解釈するんだろうかという関心があって。実際に何冊かキリスト教関係の本を読みましたが、ヨブの考えが間違っているという解釈がどうも納得できなかったんです。

――ご自身の宗教的立場、信仰は?

まったくないですね。実家は仏教でしたが、別に儀式とかやったこともないし、ほとんど接点がない。むしろ無神論に近いです。

『妖魔夜行』は、人間の想いが形となって妖怪が生まれるという話ですが、終盤でキリスト教徒の想いが集まって神が生まれ、ヨハネ黙示録に従って世界を滅ぼそうとする。これを書くためにずいぶん聖書関係の本を読んだのですが、やっぱりキリスト教を否定してはダメだと。どうやって落としどころつけようかと悩んで、最終的に、そういう考え方はキリスト教の正しい教えじゃないという結論にしました。核戦争を待望する人たちが間違っているのであって、今のキリスト教徒の多くは世界の滅亡なんて望んでいないんだと。

――無神論でありつつ、宗教は否定しない。

宗教がなくていいとは思っていません。仏教でも、神道でも、人の救いになる宗教ならあっていいと思うんです。信仰によって人が救われるならそれは構わない。逆にそういうものを迫害する考え方は嫌ですね。もちろん宗教に限ったことではなく、政治思想に対してもそうですが、どんな思想を抱いてもいい。ただ、人を傷つけてはダメ。そこが最大のポイントだと思うんですよ。

――キリスト教に限らず、さまざまな宗教に興味を持って調べるというのと、信じるというのはまったく違う?

違いますね。むしろ、人はなぜこんなものを信じるのかという興味から入った気がします。はっきり言って、僕も10~20代のころはUFOを真剣に信じていたんですよ(笑)。それが、だんだん疑うようになって、これ嘘だよねと。そういうものを信じなくなっちゃうと、他のものも疑ってかかりたくなる。そういう気質が染みついていますね。

――「関東大震災の時の朝鮮人虐殺はなかった」という歴史修正主義や、根拠のない陰謀論に対しても厳しく批判しています。

子どものころ、いじめられっ子で、なぜ人が人を迫害するのかというのがずっと疑問だったんです。僕は在日でも部落出身でもないのですが、学校の中での差別のようなものはずっと感じていました。人間同士がなぜ同じ人間だと理解し合えないのか。差別する人は相手が自分と同じ人間だと理解できていないと思うんです。宮崎勤事件以降は、オタクが標的にされましたが、やっぱりゲームやアニメに没頭している様子はハタから見ると怖いんでしょうね。

――別の著書で、「サバイバルゲームを楽しむ人たちが好戦的なわけじゃない」とも書いておられました。「ゲーム脳」もそうですが、同じようにゲーマーは危ないという思想は未だにありますね。

今で言うと、「艦コレ」(艦隊コレクション=艦艇を萌えキャラクターに擬人化したブラウザゲーム)ですね。右傾化の象徴みたいに言われますが、プレーヤーはちゃんとゲームと現実とを分けていますから(笑)。そういうことをちゃんと理解してもらわないといけない。

娯楽として愛でる 宗教として信じる

――オカルトって、エンターテインメントとしてはすごく面白いじゃないですか。でも、信じるには至らない。この間には何があるんでしょうか。

怪獣の実在って誰も信じていないでしょう。いないとわかっているけど好き。とりあえず、そういうものがあったら面白いだろうけど、まあないだろうねという。

――でも、中にはそれが実在すると言い出す人たちもいる。

一時、『消えるヒッチハイカー』という本を読んで都市伝説モノにはまったんですが、それは信じる対象ではなく、「こんな面白い話があるよ」と共有するのが楽しかった。最近テレビでやっている都市伝説系の番組は、どこか胡散臭い。「こういうことが本当にあるかもしれませんよ」と紹介するんですが、「いや、ないから」(笑)と。基本的に都市伝説は嘘です。製作者サイドは楽しんで作っていても、見ている側が信じちゃう。「アポロは月に行ってない」という陰謀論だって、最初はバラエティ番組で紹介されていたんです。

――血液型と性格は一致するはずだと、根拠もなく刷り込まれている。都市伝説とかUFOなら弊害は少ないと思うんですが、「水からの伝言」とか「ホメオパシー」は非常に危ういかと。

ニセ科学で言うと、EM菌(健康や環境問題の多くを解決できるとした微生物資材)はかなり危ない状況になってきていますね。養鶏業者がEM菌に殺菌能力があると思い込んで鶏小屋に撒いたものの、サルモネラ菌は減らなかったという事例や、「EM菌を使っているので卵アレルギーの人でも食べられます」と吹聴している事例など。本気で信じたアレルギー体質の人が食べたら、大変なことになります。こういう健康と直結したものはかなり危険ですね。

――『ニセ科学を10倍楽しむ本』にもありましたが、ニセ科学に対抗する方法はニセ科学を楽しんで知ることだと。カルト宗教にひっかからないようにするためには、カルト宗教に詳しくなることだと。

昔からオカルトものにたくさん触れてきた身からすれば、「あぁ、またか」となるんですが、免疫のない人たちは騙されやすい。オカルトを毛嫌いしている人が、ニセ科学にはまる。本のタイトルを『10倍楽しむ』としたのも、毛嫌いして拒否していたら返って思うツボだから、楽しまなくてはダメだとの思いからです。

「悪いことは悪い」 滅亡を待望するのでなく

――教会や牧師に対しての要望などはありますか?

悪いことは悪いとはっきり言わなければいけない。人を傷つけたり、財産を奪ったりという行為は問答無用で悪いことです。だから神社に油をまくのも当然いけない。世界の滅亡も、これまで散々言われてきたのに一度も当たっていません。これも僕の持論ですが、世界の滅亡を信じる人というのは、滅亡してほしいんです。世界を救うのが面倒くさい。地球温暖化の問題だって、非常に面倒くさいんですよ。だから、「××年に滅亡します」と言うと信じちゃう。そういう人たちにとっては、むしろ歓迎すべきことなんですよ。昔から、世界が滅びたらいいという宗教的な考え方はあちこちにあったのですが、いつまでもそれを引きずっていてはダメだと思います。それはみんな現実逃避だから。現実のこの世界はどうやったら救うことができるかを考えなきゃダメなんだと思うんです。神様が降りてきて、滅ぼしてくださるってことを考えていたらダメなんです。

*全文は『宗教改革2.0へ ハタから見えるキリスト教会の○と×』(ころから)に収録。

【書評】 『宗教改革2.0へ――ハタから見えるキリスト教の〇と✕』 松谷信司 編著

やまもと・ひろし 1956年京都生まれ。78年『スタンピード!』で第1回奇想天外SF新人賞佳作に入選。87年、ゲーム創作集団「グループSNE」に参加し、作家、ゲームデザイナーとしてデビュー。2011年、『去年はいい年になるだろう』で第42回星雲賞を受賞。

■『妖魔夜行 戦慄のミレニアム』(角川書店、2000年)

グループSNE所属の小説家を中心に複数の作家によって書かれたライトノベルシリーズ。存在すると信じる人々の「思い」が、それらを生み、力を与えるという設定で、聖書の『黙示録』をモチーフに人類の存亡をかけた戦いを描いた完結編。

■『神は沈黙せず』(角川書店、2003年)

21世紀に入り世界中で超常現象が発生。2012年、神がついに人類の前にその存在を示し、私の兄は「サールの悪魔」という謎の言葉を残して失踪した…。現代人の「神」の概念を根底から覆す長編エンターテインメント。

■『ニセ科学を10倍楽しむ本』(楽工社、2010年)

一見科学的なようで確かな根拠のまったくない「ニセ科学」。日常生活や教育現場にまで入り込む「ニセ科学」にだまされないために、正しい科学の考え方を会話形式で楽しく学べる科学リテラシー入門。

■『翼を持つ少女 BISビブリオバトル部』(東京創元社、2014年)

初の本格的学園ビブリオバトル小説。「彼にSFを好きと言わせたい!」中高一貫の国際学園で、SFマニアの内気な少女がビブリオバトル部に勧誘され……。

関連記事

この記事もおすすめ