入管法改定案が参議院で可決・成立したことを受け外国人住民基本法の制定を求める全国キリスト教連絡協議会(外キ協)は6月9日、「入管難民法の改悪に抗議し、難民・移民と共に生きる教会共同声明」を発表した。
声明は、日本の難民認定制度が「保護すべき人」を保護する機能を果たしておらず、国際人権諸条約に沿って入管収容制度を改正すべきであるにもかかわらず、今回の改定案によって「難民申請者」や在留資格を失った「無登録外国人」(非正規滞在者)を「さらに窮地に追い込む」として抗議の意を表した。
また、日本の難民認定率が1%以下と諸外国に比べて極端に少ない背景として、入管庁が「恣意的に」「一部の参与員によって乱雑に」運用されてきたことを挙げ、「国連の人権機関の懸念と勧告に、真摯に耳を傾けるべき」と指摘。
さらに、「本国に送還されれば迫害を受ける難民申請者に対して、3回目以降の難民申請を認めず強制送還できるようにする」という「送還停止効」の解除や、送還を拒否せざるをえない難民申請者や無登録外国人に対して、収容、仮放免、新設の監理措置の判断を「入管庁役人の自由裁量に任せる」措置が国際人権法に違反し、「ウィシュマさんを死に追いやった入管収容制度は何一つ改善されない」と非難した。
その上で、すでに「移民社会」となった日本の諸教会が、多くの外国籍の教職者・信徒を迎えていることから、「教会において、とりわけ難民申請者や無登録外国人、その一人一人の命と生活を支える市民社会の働きに連帯し、具体的な取り組みを始めていくこと」を表明している。
声明の全文は以下の通り。
入管難民法の改悪に抗議し、難民・移民と共に生きる教会共同声明
2023年6月9日
今年3月、政府は「出入国管理及び難民認定法」(入管難民法)の改定案を国会に提出した。これは、2021年に廃案となった「改悪案」をごく一部だけ修正したものであり、全国の弁護士会や市民団体、またマイノリティ宣教センター運営委員会や日本キリスト教協議会から反対声明が出されると共に、国会前シットイン、全国各地での抗議デモ・スタンディングが続いた。
しかし5月9日、衆議院で可決され、本日6月9日、参議院で可決・成立した。
私たちは、外国人に対する悪意に満ちた「稀代の悪法」成立に対して、怒りをもって抗議する。なぜなら、日本の難民認定制度は「保護すべき人」を保護せず機能していない。本来ならば世界人権宣言および難民条約に基づいて難民認定制度を抜本的に改正し、日本がすでに加盟している国際人権諸条約に沿って入管収容制度を改正すべきなのに、政府はそれをせずに、改悪法は「難民申請者」や、在留資格を失った「無登録外国人」(非正規滞在者)を、さらに窮地に追い込む立法だからである。
◆「難民鎖国」日本
改悪法ではまず第1に、認定率1%以下という現在の難民認定制度を改善する条文が欠如している。コロナ・パンデミックで世界の空港・海港が封鎖された2020年の、各国の難民認定数と認定率を比較してみると、ドイツ63,456人(41.7%)、カナダ19,596人(55.2%)、英国9,108人(47.6%)となるのに、日本はわずか47人(0.5%)である。
このように日本の難民認定数と認定率が諸外国に比べて極端に少ないことは、認定制度が法務省と出入国在留管理庁(入管庁)によって恣意的に運用されてきたからである。
難民認定の1次審査では、入管庁の職員「難民調査官」が申請者から事情聴取し、出身国に関する情報などを参照した上で法務大臣が決定するが、その事情聴取も、入管庁が持っている申請者の出身国情報も、いかに粗雑なものであるかは、この間の難民不認定処分取り消し訴訟で明らかになっている。
また、1次審査で不認定とされた場合、申請者は不服申し立てができ、2次審査では「難民審査参与員」が3人一組で審査し、その意見書に基づいて法務大臣が最終的に判断することになっている。参与員111人のなかの一人は、2021年の審査件数6,741件のうち1,378件、22年4,740件のうち1,231件を担当し、その数は2次審査総件数の2割を超える。また、もう一人の参与員は、参議院法務委員会での参考人として「1日に書面審査をまとめて50件処理した」「年1,000件以上を担当したこともある」と述べた。
一方、「全国難民弁護団連絡会議」(全難連)が実施した、参与員になっている弁護士への緊急アンケートによれば、回答した10人の平均担当件数は年間36件である。つまり、年に1,000件も、申請者のヒヤリングも含めて厳格に審査することは、とうてい不可能なのである。
おそらく入管庁は、1次審査の不認定を追認しそうな参与員に、より多くのケースを割り当て、その参与員は入管庁職員作成の文書を飛ばし読みをして「不認定」を量産しているというのが実態なのであろう。全難連の弁護士たちが指摘するように、「大半の参与員は専門性に欠け、2次審査制度は機能していない」のである。このように入管庁が恣意的に、そして一部の参与員によって乱雑に運用されてきた制度では、認定率が1%以下となるのは必然である。
しかし、それにしても、こうした難民認定制度のもとで不認定とされた99%の外国人にとって、これはあまりにも不条理な「日本の現実」なのではないのか。
政府は国連の人権機関の懸念と勧告に、真摯に耳を傾けるべきである。「委員会は、低い難民認定率に関する報告に懸念する」「締約国は国際基準に合致した包括的な難民法を早急に採択すべきである」(自由権規約委員会の総括所見:2022年11月)。
◆国際的原則からの逸脱
「締約国は、難民を、いかなる方法によっても、人種、宗教、国籍、もしくは特定の社会的集団の構成員であること、または政治的意見のために、その生命または自由が脅威にさらされるおそれのある領域の国境へ追放し、または送還してはならない」(「難民条約」第33条)
これはノン・ルフールマンの原則とされ、いかなる外国人であっても難民申請中は強制送還されない「送還停止効」とされている。そして国連の人権機関は、日本政府に対して、この原則の重要性を繰り返し強調して勧告してきた。
ところが改悪法は、本国に送還されれば迫害を受ける難民申請者に対して、3回目以降の難民申請を認めず強制送還できるようにする。さらに、日本国内で3年以上の拘禁刑に処された者や、広義のテロリズムや暴力、破壊活動等に関与し又は助長した可能性が疑われる者に対して、1回目の難民申請中であっても強制送還できるようにする。
この「送還停止効」の解除は、明らかに国際人権法に違反するものである。国連人権理事会のもとに選任された「移住者の人権に関する特別報告者」「恣意的拘禁作業部会コミュニケーションに関する副議長」「宗教または信条の自由に関する特別報告者」は連名で、法案審議中の4月18日、日本政府に共同書簡を提出した。そこでは詳細に問題点を挙げ、政府改定案は「国際人権基準を下回っている」として、次のように厳しく指摘している。
「ノン・ルフールマン原則は、国際的な人権法、難民法、人道法、および慣習法の下で不可欠かつ逸脱不可能な保護である。この原則は、(日本も加盟している)拷問禁止条約の第3条、強制失踪条約の第16条に明記されている。送還禁止原則は、拷問およびその他の形態の不当な扱いの禁止に固有の要素として絶対的であり、いかなる例外や逸脱の対象にもならない」
◆悪意に満ちた立法
難民不認定とされた外国人や、日本で結婚し子どもが生まれ日本に生活基盤がある無登録外国人は、退去強制命令が出て、「帰れと言われても帰れない」のである。法務省はこのような人びとを〝送還忌避者〟と呼び、その数は4,000人という。
改悪法は、そのような人びとに対して、無期限の収容を強いるだけでなく、さらに刑事罰を科すことによって、帰国を間接的に――実質的に強制する。しかしこれは、「超過滞在」という行政法上の違反を「刑法違反者」に仕立て上げ、いわば「犯罪者」を量産することによって、「外国人=犯罪人」とする偏見と差別をさらに助長するものであり、悪意に満ちた立法であると言わざるをえない。
◆「仮放免」の子どもたち
この〝送還忌避者〟4,000人の中には、日本で生まれ日本の学校に通う「仮放免中」の子どもたち約200人も含まれる。子どもたちは、生まれた時から在留資格がなく、住民登録も健康保険もない。支援者たちの尽力によって小学校、中学校、高校、大学へと進学できても、就職の道がまったく閉ざされている。この子どもたちの未来を奪っているのが現在の入管難民法であり、改悪法は子どもたちの生存権を奪うものである。
日本は、子どもの権利条約に加入している以上、在留状況に関わらず、すべての難民・移民の子どもたちは、子ども第一に、優先して考慮しなければならない。子どもの権利条約に謳われているすべての権利を、法律上も実質的にも享受できるようにしなければならない。国連の子どもの権利委員会が明確に述べているように、「いかなる子どもに対する入管収容も強制送還も、子どもの権利の侵害であり、子どもの最善の利益の原則と相容れない」のである。
それにも関わらず、改悪法には子どもの強制収容/強制送還を禁止する規定が一切ない。
◆司法審査なしの収容、病死・自死が続く入管収容所
「すべての者は、身体の自由および安全についての権利を有する。……逮捕または抑留によって自由を奪われた者は、裁判所がその抑留が合法的であるかどうかを遅滞なく決定すること、及びその抑留が合法的でない場合にはその釈放を命ずることができるように、裁判所において手続をとる権利を有する」(「自由権規約」第9条1項、4項)
このように国際人権法は、「身体の自由」を原則とし、「収容」は例外であることを定め、締約国に対してこの原則を遵守し、原則からの逸脱は例外的な場合に限るよう求めている。さらにそれは、締約国の国民に限定されるものではなく、難民申請者、難民、移民など締約国の領域にあるすべての者を対象としている。
しかし改悪法は、送還を拒否する/送還を拒否せざるをえない難民申請者や無登録外国人に対して、全件収容主義を維持し、収容するかどうかの「司法チェック」をしない。収容、仮放免、新設の監理措置の判断は、入管庁役人の自由裁量に任せる。つまり、2021年3月、ウィシュマさんを死に追いやった入管収容制度は何一つ改善されないのである。
これもまた、国際人権法に明らかに違反する。「収容を含むあらゆる形態の拘禁は、裁判官など司法当局によって命じられ、承認されなければならない」「収容は最後の手段であるべきで、合理性、必要性、正当性、比例性の観点から正当化されない場合、入管収容は恣意的拘禁となる」というのが国際人権基準なのである。
さらに改悪法では、1997年から現在まで、全国の入管収容施設で少なくとも21人の収容者が病死や自死で生命が奪われているにもかかわらず、真相究明も、根本的な改善策もとられていない。入管庁も法務大臣も、2021年以降「常勤医師の確保など、改革の効果が着実に表れてきている」と言うが、今年1月、大阪入管局の収容施設で、常勤の医師が酒に酔った状態で収容者を診察していたことが発覚した。しかし、その事実関係の確認も、懲戒処分もいまだなされていない。
◆75年前の「世界人権宣言」を想起する
以上に見るように「改悪」入管難民法は、日本が加盟している国際人権諸条約に違反するばかりか、第二次世界大戦後、国際人権機関と諸外国が営々と積み上げてきた国際人権基準を破壊しようとするものである。
今年12月、国連総会で「世界人権宣言」が採択されてから75年を迎える。第二次世界大戦への痛切な反省から1948年12月10 日、国連が発した人権宣言の意義は、それまで人権問題が各国の国内問題とされ内政不干渉とされてきたことに対して、人権の普遍性を確認し、その国際的保障、国際的実行の確保を図らなければならない、とする転換がなされたことにある。そしてこの世界人権宣言の第14条には、「すべて人は、迫害を免れるため、他国に避難することを求め、かつ、避難する権利を有する」と明記されている。
1.私たちは政府に対して、「改悪」入管難民法の実施に断固として反対していく。
2.私たちは国会に対して、国際人権諸条約に基づく難民保護法の制定と、包括的な外国人/難民・移民マイノリティ人権基本法の制定を求めていく。
3.すでに「移民社会」となった日本の諸教会では、いま多くの外国籍の教職者・信徒を迎えている。私たちは教会において、とりわけ難民申請者や無登録外国人、その一人一人の命と生活を支える市民社会の働きに連帯し、具体的な取り組みを始めていくことを表明する。
呼びかけ 外国人住民基本法の制定を求める全国キリスト教連絡協議会(外キ協)