カルト対策は教会でこそ 巧妙化する偽装勧誘に警鐘 カルト問題SNS対策室 柳本伸良さん

 新年度は、キャンパス内で新入生を対象としたさまざまな活動に交じって、正体を隠した勧誘が活発化する季節。「カルト問題SNS対策室」として偽装勧誘の手口などを紹介し、カルト被害の予防・対策に資する情報発信を続ける柳本伸良さん(日本基督教団華陽教会牧師)に話を聞いた。

――どのようなアカウントを運営されていますか?

柳本 昨年、YouTubeチャンネルを立ち上げ、中高生、大学生向けの注意喚起動画(15分版と20分版の2種類)をアップしました。その後、Twitter、Instagram、Facebook、TikTok、noteのアカウントを開設し、随時、さまざまな形での発信を心がけています。特に若い世代向けに、短い数十秒の動画を定期的に更新していますので、ご活用いただければ幸いです。いずれも無料で公開しており、授業や研修など、学校現場でそれぞれの環境、状況にあわせて活用しやすいよう工夫しています。必要なテキスト、プレゼン用のスライド、ナレーション原稿なども自由にダウンロードできます。カルト対策や注意喚起を目的としたものであれば、使用する際の許可や手続きは必要ありません。より詳しい資料については、消費者庁、日本脱カルト協会、カルト問題キリスト教連絡会など、信頼できる発行元の冊子やポスターをコンテンツの中で紹介しています。

――コロナ禍での変化はありましたか?

柳本 勧誘の手口が徐々に巧妙になってきています。特にこの間、SNSを使った偽装勧誘は急増しました。数年前であれば、カルト団体のアカウントもある程度見分けがついたのですが、今は専門家が見ても分かりにくいものが増えた印象です。また宗教に限らず、悪質な詐欺や疑似科学、マルチ商法もカルト勧誘の手口と重なる部分があります。勧誘の対象も、学生に限らず教職員から高齢者、既存の教会の牧師や信徒まで、さまざまなパターンが横行していますので、決してひとごととは考えずご自身もターゲットになり得るという自覚を持っていただきたいと思います。

――教会ではまだ危機意識が希薄だと感じます。

柳本 そうですね。教会関係者から寄せられる相談も増えています。SNSを使い始めた教会も多いと思いますが、例えばLINEグループなどにそうした情報が紛れてくることがあります。高齢者向けの健康食品や悪質な水ビジネスなど、一度広がってしまうと収拾がつかなくなってしまうので、予防に徹して各教会が注意喚起していただきたいです。

――最近は反ワクチンをはじめとする陰謀論なども侵食してきていますね。

柳本 やはり教会と親和性が高いですね。例えばキリスト教主義学校のチャペルなどでは、学生や生徒が受け入れやすいように宗教色をそぎ落とした内容が語られる傾向にありますが、ここに悪質なスピリチュアル商法や自己啓発セミナーなどで使われる言説が無意識のうちに入り込むことがあります。例えば「波動」「引き寄せ」「水からの伝言」などを、無批判に採用しないよう意識していただけたらと思います。カルト被害の証言では、悲しいほどにキリスト教主義学校出身という文言をよく耳にします。

――むしろ親和性があるからこそ、教会関係者が関心を持ち続ける必要がありますね。

柳本 はい。偽装勧誘のターゲットはクリスチャンも含まれます。名前も知られていないようなキリスト教系の破壊的カルトは無数にあります。たとえSNSで「クリスチャン」「プロテスタント」「エキュメニカル」を名乗っていたとしても、むやみに信じ込まないよう注意してください。自分は確固とした信仰を持っているから偽の信心には騙されないと思っている人こそ危険です。騙される可能性を想定できない人が、最もカルトに入りやすいということは実証されています。特に信徒の方が教会のアカウントの管理を任されている場合は、教職者の方からこうした偽装勧誘があるということを共有しておいてください。

――怪しいアカウントを見分ける秘訣はありますか?

柳本 同じリンクを貼り続けたり、同じアカウントのリツイートを繰り返したりしているアカウントは疑わしいのですが、最近は見分けがつきにくくなりました。もはや表面的には見分けがつかないと思っていた方がいいでしょう。肝心なのは、ある程度親しくなってから「連絡先を教えてほしい」と言われた時に、安易に応じないことです。原則として相手の所属団体がよく分からない、聞いたことがない、調べても情報が出てこないという場合は、近づかないことをお勧めします。注意しなければならないのは、リベラル、保守、左派、右派にかかわらず、どんな層にもカルトは存在するということです。

信仰は手段を正当化しない
「騙されないと思っている人こそ危険」

――安倍晋三元首相の銃撃事件以降、より勢いを増しているような印象があります。

柳本 コロナ禍で対面の勧誘ができなくなったことで、既存の教会だけでなく、カルト団体も危機感を抱いています。特に組織の維持・拡大を最優先するカルト団体は、どんな手段でも使います。SNSを駆使して、人集めに躍起になっていると見るべきでしょう。

――人集めに奔走する「正統的」な教会も少なくありませんが……。

柳本 カルト対策の大前提として、どんな信仰や思想を持っているかは問題ではありません。あくまで運営の仕方、手段、行為がカルトか否かの判断基準です。たとえ正統的な教えを持っている教会でも、運営の仕方が悪質であれば、カルト問題として取り上げられることがあります。正体や目的を隠した勧誘を行ったり、「病気が治る」「成功してお金持ちになれる」と吹聴して人集めを行ったりする教会も、カルト的と言わざるを得ません。

――献金や「宗教2世」の問題にしても、カルトか否かの境界は非常にあいまいですね。

柳本 確かに、教会でなくても、会費やカンパを集めたり、メンバーを勧誘したりすることは、活動を維持し拡大していくための自然な行為として認められます。しかし、どんなに素晴らしい結果のためであっても、目的が手段を正当化しないように、信仰は手段を正当化しません。むしろ、健全な信仰によって、手段も誠実な形に整えられていくはずです。もしサークルや企業の活動で採用すれば「アウト」とされるやり方を、教会が採用するのであれば、不健全だと認識されても仕方がありません。信仰が絡んだ途端に判断が鈍ってしまいがちですが、それこそまさに教会が批判してきた「世俗的」な過ちです。

――学校のカルト対策がカルト側から批判されたり、訴えられたりした場合の対処法は?

柳本 基本的に「警告文」などが送られてきたとしても、無視して問題ありません。カルト問題に対処する部署の教職員が、必要に応じて情報交換できる「カルト対策学校ネットワーク」(http://www.jscpr.org/school_network)に加入していただければ、そのような事例なども共有しています。最も避けなければならないのは、そうした脅しに屈して対策を控えてしまうことです。キャンパス内で人生を壊してしまうような団体の偽装勧誘があると知っていながら対策を怠ることは、非常に無責任です。「カルト問題SNS対策室」で発信している内容は、個々の団体から警告文が届いたり、訴訟を起こされたりしないよう、弁護士などの専門家の助言に基づいて作っています。安心してご活用ください。

――ありがとうございました。(聞き手・松谷信司)

やなぎもと・のぶよし 岐阜市にある日本基督教団華陽(かよう)教会の牧師。中部学院大学キリスト教概論非常勤講師。全国カルト問題連絡会世話人。

*インタビュー動画はYouTube「いのフェスチャンネル」でも視聴可能。

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