スコットランド国教会における近年の改革計画 藤守 麗 【この世界の片隅から】

スコットランドはとにかく風が強い。とりわけ私の住むエディンバラは、頂上に城の立つ山を中心に街が構成されているので、山肌にぶつかって強さを増した風に、しばしば吹き飛ばされそうになる。

この強風は、現地のスコットランド国教会にも吹き付けているように思われる。牧会者の不足、財政のひっ迫、それに比して多すぎる建物の所有数。こうした問題は長年教会内で議論されてきたものの、大会が本腰を入れて問題に取り組み始めたのは、2018年からのことだという。

まず大会は、国内に48ある中会をおよそ12にまで減らすことにした。例えばエディンバラは、これまで街単体で一つの中会を構成していたが、それが隣接するウェスト・ローディアンの中会と合併されることとなった。エディンバラとウェスト・ローディアンであればまだよい方だが、こうした大規模な中会の合併はスコットランド北部でも行われた。こうした地域では100キロ規模で離れた教会同士が、今後同じ中会に所属することになる。歴史的文脈も文化も、地域コミュニティが教会に求める役割も異なる諸教会が、共に働いていくことはできるのだろうか。

こうして拡大された一つの中会を細かい区画に分割し、同区画内に位置する教会同士は、必要に応じて建物を売却するなどして、お互いに合併や牧会活動における連携を求められている。再び例を引けば、私の働く教会は、近接する他三つの教会と合併する予定だ。現在、それぞれの教会は個別に建物を持ち、それぞれの常勤牧師のもとで礼拝を守っている。しかし中会の作った計画では、これら四つの建物と4人の常勤牧師を、二つの建物、2人の牧師、一つの小会へと縮小することになっている。2024年12月31日までに4教会は話し合いを持ち、2025年12月31日までには新形態での教会運営への移行を完了しなければいけない。幸いにも(?)4人中2人の牧師が2025年までに定年を迎えるため、どの牧師が残るのかは決まっている。

左が筆者の働くバークレー・ビューフォース教会。右手にはエディンバラ城が見える。

しかし依然として、①どの教会の建物を処分するのか、②建物を失った会衆はどこに行くのか、③新体制になっても二つの教会と2人の牧師は保持される。そのような状況下、どのように一つの小会を運営するのか、④そもそも神学的に立場の異なる四つの教会がまとまることはできるのかという問題が残されている。

とりわけ問題だと感じるのは、③④に関しての具体的な提言を、計画を作ったとされる中会側が持ち合わせていないことだ。それぞれの教会には、牧師と長老によって構成される小会(Kirk Session)があり、そこで予算をはじめとした基本的な教会の運営方針が決定される。異なる建物で礼拝を守っており、それぞれに牧師がいるにもかかわらず、どのように一つの小会を回すのか。また国教会の中には、例えばLGBTQ+の人々にとって安全な居場所となっている教会もあれば、未だ差別的な考えを持つ教会もある。これらが合併した時に、社会の中でただでさえ周縁的な立場に置かれている人々の居場所を、壊してしまわないのか。こうした現場からの声を「祈りましょう」のひと言で黙らせないでほしいと思う。

一方で、こうした質問に中会が答えることができない事情も理解できる。というのも、この計画は一つひとつの教会を、基本的に建物の価値と人件費でしか見ておらず、それぞれが多様な人々によって構成される、ユニークな「共同体」であるという観点が欠落しているように思われるのだ。中会はこれらの計画作成段階で、各教会を訪問・調査したというが、訪問を実際に受けたという教会を聞いたことがない、と同僚は話す。

確かに、コロナ禍の影響で財政難にも拍車がかかり、国教会側が抜本的な改革を迫られていることは理解できる。しかしながら、中会にはぜひともそれぞれの教会を直接訪問し、そこにどんな人が集い、どんな営みが行われているのかを見てほしい。風は強すぎれば、共同体の灯火を消すことにもなりかねないが、その吹きようによっては、灯火を一層強めることもできる。先日エディンバラの風に吹き飛ばされそうになりつつ、そんなことを思った。

藤守 麗
 ふじもり・れい 1998年東京生まれ。京都大学文学部キリスト教学専修、エディンバラ大学神学部修士課程聖書学コース卒業。現在は、スコットランド国教会にてユースワーカーとして働く。主な関心領域は旧約聖書のフェミニズム、ポスト・コロニアル解釈。

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