Q.高校生の息子が「牧師にだけはなりたくない」と言っています。私の子育てが間違っていたのでしょうか?(50代・牧師の妻)
いいえ、あなたの子育ては間違っていないと思います。私も牧師家庭で育ったのですが、牧師の子どもたちは、いやでも教会の裏も表も見えてしまいますし、両親が苦労している姿も目にして育ってしまいます。
また、牧師の家庭に生まれて損をした、普通の家に生まれたかったと思うこともたくさんあります。ですから、「牧師(牧師夫人)にだけはなりたくない」と思うのは、ごく当たり前の気持ちです。
でも教会の中で、そんなことを口にすることはなかなかできません。さらに、牧師の子どもたちは小さいときから常に「あなたは将来、牧師(牧師夫人)になるよね!」という有言無言のプレッシャーにさらされています。そうやって、「大きくなったら牧師になります」と言えば大人たちは喜んでくれるということを、自然と学習してしまうのです。
このような環境の中で、息子さんのように「自分は牧師にはならない」とはっきり言えるということはすばらしいことです。それだけ自我がきちんと育ち、自分自身で物事を考えることができるという証拠なのですから、彼が自分の意見を述べることができたのだとプラスに受け止めましょう。
むしろ、周りの意見に流されるがままに、あるいは周りの期待に応えなければという思いで献身し、牧師になってしまうことの方が問題です。そもそも「医者の子が医者にならない、あるいは学校の先生の子が先生にならない」以上に、「牧師の子が牧師にならない」ことが問題になるのだとしたら、その考え方自体がどこかずれているのかもしれません。
ですから、「牧師には、なってもならなくてもいい。どんな道でもあなたが選んだ道なら全面的にサポートするよ」と言ってあげていただきたいのです。親として牧師になってほしいという気持ちもあるでしょうが、最終的には息子さんが神さまとの関係の中で、自分の進んでいく道を選び取っていけるように励まし、祈り、支えてあげてください。
むらかみ・じゅんこ 慶応義塾大学文学部人間関係学科心理学専攻卒業。アメリカ・ホイートン大学大学院臨床心理学科修士課程、聖学院大学アメリカ・ヨーロッパ文化学科博士課程修了(学術博士)。中学校、高校のスクールカウンセラーを経て、現在、聖学院大学心理福祉学部心理福祉学科教授。公認心理師・臨床心理士。カウンセリングオフィスお茶の水にて心理相談も行う。