聖路加国際病院チャプレン裁判 元牧師らに賠償命令 所属の日本基督教団、聖公会「重く受け止める」

聖路加国際病院(東京都中央区)で難病治療に伴うケアを受けていた女性患者が、スピリチュアルケアを担当する日本基督教団所属の牧師(チャプレン)A氏から性暴力を受けたとして、牧師と病院を運営する聖路加国際大学を訴えていた裁判で12月23日、東京地裁(桃崎剛裁判長)は牧師と病院側に110万円の支払いを命じる判決を言い渡した。

判決によると2017年5月、難病である多発性筋炎を患う女性が、治療を受けていた牧師から2回にわたって病院の一室で胸を触られたり、牧師の下半身を触らされたりした。2018年1月に被害届が出されたことを受け、牧師は同年9月に強制わいせつ容疑で書類送検されたが、12月には嫌疑不十分で不起訴処分となった。

牧師は病院の第三者委員会の調査で性的接触を否定していたが、民事裁判の過程で行為自体を認めた上で、「女性が自らの意思でマッサージをした」「黙示に同意していた」と主張。桃崎裁判長は、女性が直後に性暴力救援センターや弁護士らに「セクハラで、逃げたい」「体力的にも無理」などと相談していることから、「同意はなかった」と判断し、「原告の意に反して性的自由を侵害した」と指摘。チャプレンとして牧師を雇用した病院にも使用者責任を認めた。

判決後、「聖路加国際病院チャプレンによる性暴力被害者を支援する会」主催による報告集会では、牧師のA氏が所属していた日本基督教団神奈川教区から教区議長の古谷正仁(まさよし)氏(日本基督教団蒔田教会牧師)=写真右=が出席。原告女性からの訴えを受けた段階で、判決結果を待たずに応対すべきだったことを認め、牧師の処遇をめぐっては改めて双方への聞き取りを行うと報告し、「教団が規定したハラスメント防止に関する規則が看板倒れにならないよう、今回の件を真摯に受け止めて取り組んでいきたい」と決意を述べた。

また、聖路加国際大学と深い関わりのある日本聖公会管区事務所からは、総主事の矢萩新一氏がオンラインで参加し、東京教区主教を交えた原告女性との面談を経て、具体的な対応を検討中であることを報告。「係争中であることや組織的な限界などを理由に調査・判断することが難しい」としてきたことを謝罪し、「意識改革と再発防止」を誓う武藤謙一首座主教と高橋宏幸東京教区主教の連名によるメッセージを読み上げた。

原告代理人の本田正男弁護士=写真左=は、過去の判例の延長線上にある判決に過ぎず、ジェンダーバイアスのかかった被害者像が見られる点や、同意があったか否かについて「部分的」にしか認められていない点などを不服としつつ、控訴については原告と相談して慎重に決めたいと話した。

原告女性は最後のあいさつで、「性被害と使用者責任が認められたことは、『加害者』呼ばわりされてきた時点からすればスタート地点に立てたと言える。教会関係者には、誰がどこで声を上げたとしてもハラスメントを許さないという決意を持っていただきたい。医療の中で特に弱い立場にある難病患者は、被害を受けても転院できないという事情がある。二度と私のような被害が放置されないようにしてほしい」と訴えた。

事件発覚当時、A氏への「一方的な報道」に異議を唱え、「チャプレンを凶悪な性的虐待者に仕立て上げ、未だ書類送検の段階で大きな社会的制裁を加え」たと非難する声明を発表した「A牧師を支えて守る会」の深谷美枝氏(単立横浜聖霊キリスト教会主任牧師)は、判決を受けて同声明の撤回を表明した。本紙の取材には、「刑事事件として立件された当初、A氏本人を信じて心理的なサポートを中心に担っていたが、身内を信じるあまり性急な対応を取ってしまった。裁判の経過を見守る中で、民事訴訟の経過から新たに明らかになった性加害の事実もあり、今はどういう事情があっても専門職として倫理的にあってはならないこととして重く受け止めている。改めて牧師本人を支えるのための声明が原告の方を傷つけたことを、深くお詫び申し上げます」とのコメントを寄せている。

日本聖公会首座主教、東京教区主教によるメッセージの全文は以下の通り。


このたび、日本聖公会の関連する聖路加国際病院と元チャプレンに対して起こされた⺠事訴訟について、損害賠償請求の一部を認める判断がなされましたが、日本聖公会および日本聖公会東京教区として、これに至るまで(原告の名)さんの声と痛みに十分に寄り添うことができずにきたことを謝罪いたします。

私どもはこれまで、(原告の名)さんからの声に対して、係争中であることや組織的な限界などを理由に調査・判断することが難しいとお伝えしてまいりました。

今後は、痛みを訴える方の声を真摯に受けとめ、教会のみならず関連施設においても誰もが安全に過ごせる場所となるよう、法人・組織の枠を超えて取り組みを進めてまいる所存です。ことに病院をはじめ関連諸施設チャプレンの重要性を改めて認識し、意識改革と再発防止に努めてまいります。

2022年12月23日

日本聖公会 首座主教 主教 武藤謙一
日本聖公会 東京教区主教 主教 髙橋宏幸

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