地を耕し、地に種をまく 向井真人 【宗教リテラシー向上委員会】

友人と雑談中の出来事である。「9月といえばお彼岸があるんだけど……」と話すと、友人から「9月にお彼岸があってお墓参りをする、という思考は仏教ガチ勢の証だよ」と言われてしまった。「〇〇ガチ勢」とは、〇〇のリテラシーが非常に高い集団という意味である。

いまこの文章を読んでいる皆さまが「宗教」と聞いて、頭に浮かぶものは何があるだろうか。「キリスト教」「牧師」「神父」などが想起されるだろう。これは、毎週の礼拝に通う、聖書を開く、生活の中で主体的に宗教と関わる私たち宗教ガチ勢の思考の証である。

しかし大半の日本人は宗教ガチ勢ではない。「宗教」と聞けば「カルト」「アヤしい」などを思い浮かべる人が多いだろうか。目に見えないものを信じる、に対して身構えるのが普通なのだ。

宗教側も工夫をしている。目に見えるかたちで表現をしたり、体験を促したり、身近に感じてもらったり、頭で理解してもらえるように説明を続けてきた。

先日は、神奈川県横浜市にある日蓮宗妙法寺で「地獄VR」なるものを体験してきた。文字通り、VRゴーグルをかけて地獄などを垣間見る。さまざまな経典において、この世における悪業のため地獄で苦しむ人々の様子が描かれている。文字・読み物として目を背けたくなる内容だ。ただし頭で理解はできても、そのまま信じられるかどうかといえば悩ましいだろう。では、平面の絵にしてはどうか。歴史的には、餓鬼草子、地獄図や熊野観心十界曼荼羅が描かれ、絵の解説もされてきた。

令和になると平面から音声と立体動画のヴァーチャルリアリティにランクアップである。地獄VR体験では、僧侶による法話と、自身の悪業と向き合うワークショップ、法要と盛りだくさんであった。体験後、住職に話をうかがうと、現代の技術で仏教を伝えたい思いや、VRでも法話でも何かひとつ持って帰ってもらえるようにという工夫がひしひしと伝わってきた。

私事で恐縮だが、筆者はお寺や仏教をテーマにした「お寺ボードゲーム」を作っている。現在は2023年2月に向けた新作のクラウドファンディングをしている。お釈迦さまが亡くなったと聞いて、人々、仏、動物や虫たちが集まっている風景を描いた仏教絵画「涅槃図(ねはんず)」。この涅槃図をお絵描きするゲームだ。涅槃図や絵のテーマ「死」を他人事にするのではなく、手を動かし、遊びながら、楽しみながら、主体的に取り組んでもらう。お絵描きするプレイヤーは、仏、動物や虫たちとともに、お釈迦さまの涅槃を目撃している、という設定になっている。

現代の私たちが宗教を題材とする絵画を見る機会は、博物館や美術館がほとんどかもしれない。ガラス越しに見る宗教表現物はただの鑑賞物になってしまう可能性が高くなる。見るという行為を本当に行いたいと思うならば、絵がこの私に語りかけてくる言葉をくみ取る必要がある。そのような宗教ガチ勢の思考の片鱗でも目覚めさせられないか。目に見えないものを信じることへつながる土壌をつくり、種をまけないか。宗教界の試行錯誤は続く。

向井真人(臨済宗陽岳寺副住職)
 むかい・まひと 1985年東京都生まれ。大学卒業後、鎌倉にある臨済宗円覚寺の専門道場に掛搭。2010年より現職。2015年より毎年、お寺や仏教をテーマにしたボードゲームを製作。『檀家-DANKA-』『浄土双六ペーパークラフト』ほか多数。

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