「海の主日」と教会の働き 與賀田光嗣 【宗教リテラシー向上委員会】

日本聖公会には「海の主日」がある。「海の日」は1995年に制定、翌年施行の休日である。海から得られるさまざまなものへの感謝を現し、海洋国家・日本の繁栄を願うのが「海の日」の趣旨だ。それゆえ日本聖公会でも「海の日」に祈りをささげる。しかし「海の日」の趣旨とは少し異なる理由がある。

「すべての海で働く人々の福祉と安全のため、この人々に奉仕している聖公会およびキリスト教諸教派の海員宣教団体のために、ことに、横浜・神戸・苫小牧にあるミッション・トゥ・シー・フェアラーズ(以下MTS)の働きを憶え、祈り、その働きを支えるために信施をささげること」、それが理由だ。MTSと同様の船員向けの教会活動は諸教派にあり協働していることも多い。

ローマ・カトリックでは「ステラマリス」が挙げられる。「ステラマリス」とはラテン語で海の星、海の星の聖母、聖母マリアが海の旅人の保護者という考えに由来する。世界約300カ所の港で、チャプレンによる船員司牧の拠点となっている。では聖公会MTSの活動を通して、教会は何をなしているのか。

MTSは、主に船員や、港町に住む人々の教会である。世界50カ国以上、200カ所以上の港でその務めを果たす。神戸MTSは中華街と繁華街のすぐ隣という抜群の立地を誇っていた。しかし、現在はコロナ禍ゆえに船員の上陸が困難なため、また建物老朽化のため再建工事に取り掛かり、事務所を別に構え活動を継続している。

神戸MTSの特徴的な点は、教会の中にあるバーカウンターだった。そこで司祭が訪問者たちをもてなす。安価にくつろげるスペースがあり、寄港した船員たちがコミュニケーションを取れるように、卓球台や、ビリヤード台が置いてあった。

また、船員らが家族と通話できるようにパソコンも用意されていた。生まれたばかりの我が子の顔を、ネットを通じて見ることができた船員もいた。自由に持ち帰ってよい夏服や冬服も常備されている。船員の多くは赤道を越え、寒冷地を通過するからだ。また古本も置いてある。航海中に読み終えられると、別の港で最寄りMTSの本棚に置いて行かれる。そして礼拝堂がある。そう、何よりも祈りの寄港ができるのだ。

船員たちを支えるこの交わりのために、多くのボランティアが働いている。近年では寄港時間が短い船舶のために、スタッフが船まで赴き、船員らと交わり、船舶にて礼拝を捧げることもある。

いわば教会をさまざまな場所へデリバリーする働き、それがMTSである。主にある交わりを持つことを諦めない、教会の強い意志を感じる働きだ。この交わりへの意志に、主の姿を見つけないだろうか。船員たちは、その仕事ゆえに教会の交わりからは遠くなっている。しかし、周縁にある人びととの交わることを大切にされたのは主イエスではなかったか。

かつてMTSにいた老司祭の言葉を思い出す。あるMTSの新聖職の按手式の説教の言葉だ。

「横浜MTSでは、冬の3カ月間、炊き出しを行った。ホームレスの人たちがたくさんやってくる。あるとき、男性が近寄ってきた。薄汚く、悪臭を放ち、皮膚はアカでひび割れていた。そんな彼が私に抱きついてきた。臭いもあり、やはり嫌悪感を覚えた。だが、そこで彼は抱きつきながら『ありがとう、本当にありがとう』と言った。私は抱きしめかえした。彼との出会いの中で、主と出会ったのだ」

教会の交わり、主の食卓に座れない人々の中に、主イエスとの出会いがある。この海の主日、7月10日、教会の働きとは何か。あらためて問い、祈りの中に答えを得たい。

與賀田光嗣(神戸国際大学付属高等学校チャプレン)
よかた・こうし 1980年北海道生まれ。関西学院大学神学部、ウイリアムス神学館卒業。2010年司祭按手。神戸聖ミカエル教会、高知聖パウロ教会、立教英国学院チャプレンを経て現職。妻と1男1女の4人家族。

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