アテネ郊外のギリシャ正教会シスト墓地に、アフガニスタン難民エスファンディヤル・ファグキリさんの5歳の息子は眠っている。小さな墓地の前でファグキリさんは「二重の苦しみ」を味わっている、とAFP通信に話す。
ファグキリさんは5人いる子どもの1人を失っただけではなく、埋葬されたのがキリスト教正教会の墓地だったため、イスラム教の戒律に従うことができないでいる。ファグキリさん一家は2020年9月から、アテネ北部のマラカサ難民キャンプで暮らしていた。息子のハシボラちゃんは21年1月、キャンプの入り口でトラックにひかれた。ハシボラちゃんの埋葬後、3年後の24年には遺体を掘り起こさなければならないと言われた。
慢性的な土地不足に悩むギリシャでは、遺体の掘り起こしが一般的に行われている。人口1000万人の3割以上が住むアテネで、土地不足は特に深刻な問題となっている。イスラム教では、遺体の掘り起こしも、火葬も認められていないとファグキリさんは指摘する。シスト墓地近くの自治体担当者は、有料の一族の墓がある人以外は「3年後に強制的に掘り起こす必要がある」と強調する。遺骨は、墓地内の教会の納骨堂に安置されることが多い。
ギリシャでは、ギリシャ正教徒が大半を占めている。イスラム教徒向けの墓地は、アテネから750キロも離れている北東部トラキアにあるだけだ。ギリシャはかつてオスマン帝国の支配下にあったことから、トルコ国境近くのトラキアには何百年も前から少数派のイスラム教徒が暮らしてきた。アテネのイスラム教徒は以前はごくわずかだった。だが2015年の難民危機で中東、北アフリカ、南アジアから戦争や貧困を逃れ多数の難民がギリシャに流入した。現在は50万人ほどがアテネに暮らしている。多くの難民家族にとって、トラキアは埋葬地としては遠すぎ、遺体の移送費用を捻出するのも難しい。
ギリシャ正教会は2016年、シスト墓地の敷地のうち、2万平方メートルをイスラム教徒に割り当てることを決めたという。だが、請負業者と裁判沙汰になり、整備は進んでいない。宗教問題も管轄する教育省の高官は、イスラム教徒の墓地整備事業は承認済みだとし、「アテネにはイスラム教徒が多いことを考えると、実現するだろう」と語った。だが、人権団体や最大野党・急進左派連合(SYRIZA)は、政府が強硬な反移民政策をとっていることから、実現には懐疑的だ。
アテネでは2020年11月に初めて正式なモスクが開設された。だが、正教会や国家主義団体などから強い反発があり、完成までに10年以上かかっている。(CJC)