【夕暮れに、なお光あり】 しがみついて生きる 川﨑正明

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新聞の訃報欄をいつも注目して読む。著名な作家や芸能人などの名前を見て驚くことも多い。その死亡年齢が80歳代が多いような気がして、いつも自分の年齢と重ね「あと何年生きられるのだろうか」と考えさせられる。厚労省によると、2019年の日本人の平均年齢は、男81.41歳、女87.45歳となっているから、84歳の私は平均寿命を超えている。ただ、私が生まれたころの1935年の男性平均寿命は46.92歳だったから、この80年余でなんと34.49歳も寿命が延びている。著しい高齢化社会を迎えて、人生100年時代と言われる所以であろう。

そんな思いを巡らせている時、最近、毎日の散歩途中に見る蝉の抜け殻(空蝉)が気になっている。実は今年1月末に見つけたのだが、山茶花の1枚の葉にぶら下がっていて、雨風にも耐えて必死にしがみついている。実際には昨年の夏以来だろうから、もう8カ月以上その状態でいることになる。蝉は幼虫の時代に土の中にもぐって成長し、7年目(もっと長いとの説もある)に地上に出る。その地上では1、2週間しか生きることができない。その命を育んでいた殻が、半年以上も葉にぶら下がっているのである。もちろんそれは死体(空蝉)でもあるが、その状態を見て

「しがみつき 冬木に耐ゆる 蝉の殻」

「爪立てて たましひ残る 蝉の殻」

などと詠った人がいた。

私は毎日(この原稿を書いている日も)その抜け殻を見て、80年余も生きてきた自分と、ひと夏の1、2週間しか生きなかった蝉のいのちを重ねてみる。そう思うと、何だか日が経つにつれてその抜け殻も老いていくように見えてきた。足の爪を葉っぱに食い込ませるようにして、必死にしがみついている姿が愛おしくなってきた。

聖書のある場面が浮かんできた。12年間も出血が止まらずに苦しんでいた女性が、「この方の服に触れさえすれば治してもらえる」(マタイ9:21=新共同訳)と思って、イエスの後ろから服に触れたら、病が治った。イエスは「娘よ、元気になりなさい。あなたの信仰があなたを救った」(同22節)と言われた。

必死になってイエスの服に触れた女性の行為が、懸命に1枚の葉にしがみついている空蝉に重なって見えた。いつ、何が起こるか分からない私たち高齢者のいのち、もうここまで来れば、「イエス様、お願いです。守ってください」と祈りながら、主イエスに必死にしがみついて生きるしかない。私は今、そんな自分の齢(よわい)と向き合っている。

かわさき・まさあき 1937年兵庫県生まれ。関西学院大学神学部卒業、同大学院修士課程修了。日本基督教団芦屋山手教会、姫路五軒邸教会牧師、西脇みぎわ教会牧師代務者、関西学院中学部宗教主事、聖和大学非常勤講師、学校法人武庫川幼稚園園長、芦屋市人権教育推進協議会役員を歴任。現在、公益社団法人「好善社」理事、「塔和子の会」代表、国立ハンセン病療養所内の単立秋津教会協力牧師。編著書に『旧約聖書を読もう』『いい人生、いい出会い』『ステッキな人生』(日本キリスト教団出版局)、『かかわらなければ路傍の人~塔和子の詩の世界』『人生の並木道~ハンセン病療養所の手紙』、塔和子詩選集『希望よあなたに』(編集工房ノア)など。

 






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