コロナ禍で直接のコミュニケーションを取る手段としてSNSやオンラインが主流となって久しい。また、VRやAIなどの発達によってさまざまな分野における情報入手のみならず、世界中の人々とオンラインで瞬時につながることができ、コミュニケーションも容易に取れるようになった。もちろんムスリムの間でも盛んにSNSやオンライン上で交流が行われている。
だが、オンラインでのムスリム同士の対話や交流はかなり以前から見られた。メールでのやり取りに限らず、チャットを通してムスリム同士が交流することで、ムスリムとしての自己を認識し、あるいは維持することができる。だがそれだけではない。インターネットのイスラーム関連のサイトはイスラームが知られていない遠い国や地域に対する布教活動の場ともなり、さらにはムスリムとのチャットを通して新たな改宗者を生むこともできるからである。
事実、筆者が2006年から2011年の間に中南米におけるイスラームのフィールドワークを行った際、インターネットでイスラームを知り改宗に至ったムスリムに複数名出会った。彼らにインタビューしたところ、これまでイスラームに興味を持つことなく、ムスリムとの接点もなかったがインターネット検索をきっかけとしてイスラームを知ったという。
またこの調査において、ムスリムとのSNS上での対話を通じてイスラームという宗教を少しずつ理解していき、最終的にムスリムになったという人が想像以上に存在した。元々イスラームとは何ら縁のなかった彼らがなぜイスラームについてインターネット検索をしたのだろうか。いくつかの理由があるが、筆者がインタビューした中南米の改宗ムスリムの多くは改宗者自身がかつて信仰していた宗教に疑問を感じてインターネットでさまざまに検索をしていく中で、あるサイトでイスラームを知ったことによる。ただし、検索しただけでは理解に導かれることはない。検索後にサイトの管理者であるムスリムにイスラームについて質問をし、SNS上で複数のムスリムと会話する中で少しずつイスラームに惹かれていく。すなわち、ムスリムとの会話が後押しとなってイスラームに改宗するに至っているのである。
例えば、南米のボリビアでは、調査当時20代のボリビア人女性改宗者と出会った。彼女はかつて信仰していた宗教に疑問を感じてインターネットでさまざまな宗教を検索した中で、イスラームを知ったという。インターネット検索では、キリスト教系の新宗教団体のサイトにもアクセスをしておりそれなりに魅力を感じていたが、トルコ人やアルゼンチン人のムスリムとSNSで対話をしていく中で、イスラームが彼女にとって最も魅力的な宗教に思われたので改宗したとも述べている。
また別の女性改宗者は、かつて彼女が信仰していた宗教、特に宗教教義に対して疑問を持ち、インターネット検索によって、イスラーム関連のあるサイトにたどり着き、そこでサイトの運営者である女性ムスリムにさまざまな質問をした。彼女はその女性ムスリムとの対話の結果、イスラームが彼女の理想に一致したので改宗に至っている。
このように、インターネットは有効な布教媒体であるが、問題点も指摘できる。どの言語で、どのサイトを見たのか、宗派(例えば、スンナ派やシーア派)はどこか、いかなる社会的立場のムスリムと対話して理解に至ったのかなど、その媒体によっても新たな改宗者のムスリムとしての生き方にも影響を及ぼすことになるからである。(つづく)
小村明子(立教大学兼任講師)
こむら・あきこ 東京都生まれ。日本のイスラームおよびムスリムを20年以上にわたり研究。現在は、地域振興と異文化理解についてフィールドワークを行っている。博士(地域研究)。著書に、『日本とイスラームが出会うとき――その歴史と可能性』(現代書館)、『日本のイスラーム』(朝日新聞出版)がある。