そのころ、皇帝アウグストゥスから全領土の住民に、登録をせよとの勅令が出た。
ルカ2章1節(参照箇所同書2:1〜7)
聖書は、地中海世界の中で誰にも知られることなく生まれた、救い主の歴史的証人として権勢並ぶ者のないローマ皇帝を引っ張り出しました。アウグストゥスは、本来の名をオクタビアヌスと言い、前30年アクチウムの戦いでクレオパトラと同盟を結んだ政敵アントニウスを破って独裁政治をローマに打ち立てたことでも知られています。
ルカが、この名を持ち出した背景には誰もがよく知っている人物であるという以上に、アウグストゥスは、ローマの神々を統括する神官長となり、国家宗教の頂点に立ち、彼を主とする皇帝礼拝を押し進めるに至りました。このことは、彼を主とするか、キリストを主とするかの信仰告白に関わる重大問題へと発展するのです。キリスト教徒にとって、キリストを主と告白することは、迫害を受けることであり、死を覚悟しなければならなかったのです。
救い主の誕生の証人として、名を連ねたアウグストゥスは、有名人として箔を付けるために登場したのではなくて、この世の権威をもって主とするのでなく、神からの権威に従う信仰の重大さに気付かせようとしているのです。