命を救うために、神がわたしをあなたたちより先にお遣わしになったのです。
創世記45章5節(参考箇所同書45章1〜28節)
ヨセフ物語の中のハイライトといべき個所です。族長ヤコブには十二人の子どもがいましたが、その一人ヨセフは父の寵愛を一身に受けたため兄たちに嫉(そね)まれ、エジプトへ奴隷として売られてしまいます(37章)。数奇な運命を辿ったヨセフは、エジプト王に認められ国の司政者としての地位を得ることとなります(41章)。
それとは知らず飢饉のため食物を求めてエジプトへやって来た兄弟たちを前に、ヨセフは身の上を明かしますが、かつて自分を売った兄弟を恨むことなく、「命を救うために、神はわたしをあなたたちより先にお遣わしになったのです」と言うのです。
人には、自らの意志や責任によってでなく、場合によっては他人の悪意によって思いがけない人生を送る羽目に落ち入ることもあり得ることです。ヨセフはこれを運命や宿命として捕らえることなく、神の摂理が先に働いていて目的をもって遣わされたのだと受け取ったのでした。たとえ運命に翻弄されるがごとき人生であっても、そこに神の摂理があると信じることができる人生はまったく質のちがう人生となっていることを見出すことになるでしょう。人間にとって意味のない人生はないことを教えるエピソードです。