新型コロナウィルスの影響は、路上生活者をはじめとする経済的・社会的に弱い立場にある人々にも及んでいる。
北海道札幌市の札幌豊平教会では、2016年より定期的に教会を解放し、路上生活者や、生活保護を受けている人などと温かい食事を共にしてきた。2017年からは毎週金曜日の昼に、「とよひら食堂」として年末年始も休むことなく食事を提供していたが、2月以降は札幌市内でも感染が広まったのを機に食堂を閉鎖し、教会の前で手作りの弁当を配付する方法に切り替えている。
とよひら食堂を利用するのは、路上生活者や少額の年金受給者、生活保護を受けながらも困窮している人々が中心だ。コロナ以前は毎週約40人が利用していたが、緊急事態宣言の発令以降、利用者は増加傾向にあり、現在では約80食の弁当を配付しているという。
「最近では、コロナをきっかけに失業した方や、外国人留学生、研修生の方の利用も増えています。今後、ますます深刻化するのではないでしょうか」と同教会の稲生義裕牧師は言う。
週に一度とはいえ、80食分の弁当を無料で配付するのは、簡単なことではない。弁当作りは、教会からの呼びかけによって集まった市民ボランティアを含む約15人のメンバーが交代で行う。万全を期すため、手洗い・消毒の徹底やマスク着用に加えて、調理担当者は教会まで公共機関を使わずに来られる人に限定した上で、ボランティア同士の接触を避けるため、食材運搬や調理、パッキングまでの工程ごとに、それぞれ一人で担当する等さまざまな対策を行っている。食材はフードロスの削減を考慮に入れ、主に提携するフードバンクの支援によるが運営は厳しく、地元の農家や献金などによってかろうじて支えられているという。食事の提供を続けることに対して、どのようにすれば実施可能か、教会内で何度も話し合われたというが「生きている限り、食べるのを休むことはできないでしょう。コロナ以外にもお金がない、人がいないなど、やめてしまう理由を挙げればいくらでもありますが、御心がここにあると確信して始めたのだから、絶対にやめないと決めているのです」
札幌豊平教会は、1906(明治39)年頃、生活困窮地域の子ども達のもとに、宣教師サラ・スミス(現在の北星学園の創設者)が北星女学校の生徒達を伴って訪れ、日曜学校を開いたのが始まりだ。以来、貧困をはじめ社会の問題と向き合い続け、2016年からは「他者と共に、他者のために」をテーマに掲げ、さらに地域に仕える教会を目指して活動を続けている。
しかし、すべての人が教会に対して好意的、協力的なわけではなく、こうした取り組みにも批判が寄せられる。この活動が以前メディアに取り上げられた際は、「なぜ働こうとしない人に、無償で食事を与えるのか」「生活保護を受けている人に食事を与える必要があるのか」「甘えさせることではなく、自立させるための活動をしろ」といった意見も数多く寄せられた。コロナ禍で社会全体が経済的に落ち込み、苦しい生活を強いられる人が多い中で、こうした声が多いのも残念ではあるがやむを得ないと稲生牧師は言う。
「ただ、路上生活者や一部の生活保護受給者の問題は単純に解決できるものではありません。当然ながら望んで今の生活に入った人はいませんし、就労ができない心身の課題を持つ方や、それまでの人生の中で、長く自分を否定され続けたことで深く傷つき、まだ立ち上がることができないという方がたくさんいます。私たちが食事を提供する最大の目的は、安心して憩える場所、ここが自分の場所だと思ってもらえる場を作ることです。だから私たちが「早く就職しなさい」「生活保護を受給しなさい」と声をかけることはしません。一人ひとりがここで癒されて、自分の力で「よし、もう一度頑張ろう」と立ち上がるまでのきっかけづくりだと思っています」
依然として新型コロナウィルスは収束せず、食堂再開のめどは立たないが、弁当の配付は続けていきたいという稲生牧師。
「礼拝は再開しているのに弁当を配るのはやめました、なんて神様に対して恥ずかしいことです。忘れがちですが、自分ひとりの力で生きている人は一人もいません。誰もが誰かに助けられて育ち、生きています。助けを求めること、そして助けることは恥ずかしいことではありません」
イエスは言われた。「わたしの食べ物とは、わたしをお遣わしになった方の御心を行い、その業を成し遂げることである。
(ヨハネによる福音書 4:34 新共同訳)
これは、稲生牧師が心にとどめているという聖書の一節だ。この新しい感染症をきっかけに、人々が互いを思いやり、分かち合う共生社会へ、世界が作り変えられていくことを願ってやまない。
日本キリスト教会札幌豊平教会への支援など問い合わせは同教会(011-811-6838)まで。