【日本YWCA】 ゼロからわかる! 地球温暖化のリアル 江守正多(国立環境研究所)

温暖化ってホントなの?

最近、毎年のようにやってくる熱波、梅雨期の大雨、強い台風。ニュースで頻繁に見るようになった外国の洪水や森林火災。これらが地球温暖化のせいで起きているという話を聞いたことがあると思います。でも、自然現象だという人もいるようだし、何が正しいのかよくわからない……。そんな方にまず、地球温暖化の現状について基本的なお話をします。

世界の平均気温は100年前くらいから上下の変動を繰り返しながらも長期的に上がり続け、1℃ちょっと上がりました。1℃というとたいしたことないと思うかもしれませんが、実はこの上昇は地球の過去数千年の歴史の中で前例がないものです。

その主な原因は、大気中のCO2(二酸化炭素)などの「温室効果ガス」が人間活動によって増えたことで、これは疑う余地がありません。温室効果ガスが増えると、赤外線が宇宙に逃げにくくなり、地球の温度が上がります。それ以外の原因、たとえば太陽活動の変動や火山の噴火では、この気温上昇はまったく説明がつきません。

地球の温度が上がるのが「地球温暖化」ですが、それに伴って、雨の降り方が変わったり、氷が解けたり、海面が上昇したりしています。それらを含めて、「気候変動」といいます。ただ、「地球温暖化問題」と「気候変動問題」はだいたい同じ意味で、どちらも「人間活動によって地球の温度が長期的に上がっていくことと、それに伴って起きる変化」を問題にしています。

熱波や大雨といった「異常気象」は昔からたまに起きるので、いってみれば自然現象。不規則に変化する気圧パターンが、たまたまある形になったときに起きます。しかし、そこに長期的な地球温暖化の傾向が足されると考えてください。すると、熱波の気圧パターンが来たとき、温暖化の分だけ昔より余計に暑くなります。大雨の気圧パターンが来ると、温暖化で大気中の水蒸気が増えている分だけ余計に多く雨が降ります。「温暖化の分」だけ、一つひとつの熱波や大雨がパワーアップしてしまう。これが、最近、記録的な異常気象が増えている理由と考えられます。

気温が上がるとどうなる? 

このまま地球温暖化がさらに進むと、熱波や大雨などの異常気象はより激甚化し、記録的なものが起きやすくなります。災害をもたらす異常気象が、あなたの住む地域に直撃する可能性も徐々に高まります。

さらに、温暖化が、ある「限界」を超えると、急激で後戻りできない大規模な「変化」のスイッチが入ってしまうことが心配されています。たとえば、南極の氷が不安定になって崩壊が始まり、海面上昇が加速するおそれがあります。また、南米アマゾンの熱帯雨林が枯れるのが止まらなくなり、大量のCO2を放出しながら、アマゾン全体が草地に変わってしまうおそれがあります。

何℃温暖化したらそのような「限界」を超えるかは、まだよくわかっていません。しかし、温暖化が進むほど、超える可能性が高くなることは確かです。

もう一つ大事なことがあります。この問題では、温暖化の原因に最も責任がない人々が、最も深刻な被害を受けます。干ばつが増える乾燥地域の発展途上国に住む人々は、深刻な食糧危機、水危機に襲われます。沿岸地域の発展途上国や小さい島国の人々は、海面上昇や高潮によって生活の基盤を失います。彼ら自身はCO2をほとんど出していないにもかかわらず、先進国や新興国の人々が出したCO2による温暖化の影響を、最も残酷な形で受けるのです。

同じことは、将来世代についてもいえます。温暖化がこのまま進めば、将来に生まれてきた人々ほど、温暖化の影響がより深刻になった地球でより長く生きていくことになります。その原因を作っているのは、前の世代が出したCO2です。

地球温暖化を止める必要があるのは、自分が異常気象に直撃されたら困るからだけではなく、このような地球規模の、世代を超えた不公平の問題をなんとかするためでもあるのです。

人間の力で止められるの?

国連では、30年前からこの問題を話し合い、2015年の「パリ協定」で、世界の長期的な目標が決まりました。それは、「世界平均気温の上昇を、産業革命前を基準に、2℃より十分低く抑え、さらに1.5℃未満に抑えるように努力する」というものです。現在、すでに1℃以上上昇している世界平均気温を、できれば1.5℃で止めたいということになりました。

そのためにはどれくらいCO2の排出量を減らしたらよいでしょうか。

その答えは、2050年ごろまでに、世界のCO2排出量を実質ゼロにすること。人間活動によるCO2排出の大部分は、石炭、石油、天然ガスといった化石燃料を使用することにより出ています。現在、世界のエネルギーの8割くらいが化石燃料で作られていますので、あと30年で、これを再生可能エネルギーなどのCO2を出さないエネルギーに置き換えるという、エネルギーシステムの大転換が起きなくてはいけません。

エネルギー以外についていえば、森林を増やしたり手入れしたりすることでCO2の吸収を増やすことも有効です。農地の土壌にCO2を吸収することもできます。CO2の次に重要な温室効果ガスであるメタンは、牛のゲップや水田などから多く出るため、食と深い関係があります。牛肉の生産を減らすことはメタンの排出削減に有効と考えられています。

日本も、昨年10月に菅首相が2050年までに温室効果ガス排出量を全体としてゼロにする「脱炭素社会」を目指すと宣言し、このことは地球温暖化対策法という法律にも書き込まれました。しかし、あと30年で排出量実質ゼロを実現するのは、あきらかに大変な目標です。

私たちにできることは?

 この、とてつもなく大きな問題に、私たちはどう向き合っていったらよいのでしょうか。

2015年に行われた国際的な社会調査によると「あなたにとって気候変動対策はどのようなものですか」という問いに、世界平均では「生活の質を高める」と答えた人が多いのに対して、日本では「生活の質を脅かす」と答えた人が多かったという結果になりました。日本で温暖化対策というと、節約する、負担する、楽しいことや快適なことを我慢する、生活のレベルを落とす、というイメージを持っている人がどうやら多いようです。そのような発想で、CO2 排出量実質ゼロを目指すのはとても難しいでしょう。

そうではなくて、たとえば断熱性能の高い家に住めば、CO2排出が減ると同時に生活が快適になります。太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーが増えて火力発電が減れば、その分だけ外国から化石燃料を買う必要がなくなりますし、地域の活性化につながる可能性もありますし、大気汚染も出ませんし、災害時の電源にもなります。そんなふうに、気候変動対策の良い面を認識して、前向きな気持ちで社会の変化を理解し、応援し、後押しすることが重要だと思います。

人々の関心は多様なので、CO2排出を減らす生活を心がける人もいれば、まったく気にしない人もいます。みんなに関心を持ってもらうことも大事ですが、関心が無い人でも知らないうちにCO2を出さない生活をしているような、社会の仕組みや常識を変えていくことが、より重要です。脱炭素社会を目指すことが、当たり前になってしまえば良いのです。

そのために、この問題に関心を持った人は、関連するニュースに敏感になって、SNSで発信したり、周りの人と話したりしてほしいと思います。また、脱炭素社会の実現に向けて真剣に取り組む企業や自治体や政治家を応援することもできます。

日本の常識が変わらなかったとしても、世界の常識は変わっていくでしょう。それに遅れて付いていったり、足を引っ張ったりすることにならないよう、日本がむしろ前に出て先導するようになりたいものです。あなた自身や、あなたの身の回りから常識が変わっていくことが、その後押しになるはずです。

江守正多
 えもり・せいた 1970年、神奈川県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。97年、国立環境研究所に入所。2021年より地球システム領域副領域長および連携推進部社会対話・協働推進室長。東京大学総合文化研究科広域科学専攻客員教授。専門は地球温暖化の将来予測とリスク論。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5・第6次評価報告書主執筆者。著書に『異常気象と人類の選択』など。Yahoo!ニュース「個人」に不定期で寄稿。

イラスト/大島史子

出典:公益財団法人日本YWCA機関紙『YWCA』10月号より転載


YWCAは、キリスト教を基盤に、世界中の女性が言語や文化の壁を越えて力を合わせ、女性の社会参画を進め、人権や健康や環境が守られる平和な世界を実現する国際NGOです。

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