【「キリスト新聞」との共同インタビュー】最初の告発をした小柳敦史氏 深井智朗氏の研究不正について語る(1)

 

「神学者カール・レーフラー」を創作するなど、著作や論考に捏造(ねつぞう)や盗用があったとして懲戒解雇された東洋英和女学院元院長の深井智朗(ふかい・ともあき)氏。発端となったのは昨年10月、「キリスト新聞」のホームページに掲載された「日本基督教学会 深井智朗氏への公開質問状と回答を学会誌に掲載」の記事だ。この公開質問状を書いた北海学園大学准教授の小柳敦史(こやなぎ・あつし)氏(38)に話を聞いた。

小柳敦史氏

小柳氏は2005年、京都大学文学部人文学科を卒業し、同大学院文学研究科思想文化学専攻に進んだ。その後、沼津工業高等専門学校教養科で教え、17年より現職。専門は、近代ドイツのキリスト教思想を中心としたヨーロッパの思想史。18年、エルンスト・トレルチについての研究書『トレルチにおける歴史と共同体』(知泉書館)により、第1回日本基督教学会賞を受賞している。ちなみに、クリスチャンではない。

深井氏も2005年、京都大学で博士号(文学)を取得したドイツ思想史の研究者で、小柳氏は深井氏と同じ分野を研究しているだけに、今回の問題に最も詳しい一人といえよう。公開質問状を発表した日本基督教学会には両者共に所属していたが、深井氏は退会した。

──公開質問状は、日本基督教学会誌「日本の神学」57号(2018年版)に「質問と応答・会員から会員へ」と題して掲載されていますが、掲載の経緯を教えてください。

2013年に私は、深井さんの著作『ヴァイマールの聖なる政治的精神──ドイツ・ナショナリズムとプロテスタンティズム』(岩波書店、2012年)の書評を「日本の神学」52号(139~144頁)に書き、その中で「カール・レーフラー」という人物の詳細な説明がないことなどを指摘しました。この時にも、「ひょっとしてカール・レーフラーは実在しないのではないか」という疑念もあったのですが、集中して深く調べたりはしなかったんですね。

17年に北海学園大に移ってきた頃、ドイツ歴史学を研究する二人の人から別々に、「深井さんの研究が信用できないものであるなら、きちんとキリスト教学の中で批判して問題を指摘するべきだ」と言われました。20世紀のドイツ史研究者にとって、その時代のプロテスタント学者の発言や思想は大事な情報源なので、その研究の第一人者である深井さんの本や研究論文に問題があると、ドイツ全般の研究にも波及してしまう問題があるわけです。そのことを改めて痛感し、深井さんのことを放っておくのは、同じ分野を研究する者として無責任だと思い、独自に調査しました。

──小柳さん以外にも、深井さんの研究を問題視している人はいたのですか。

深井さんの仕事は以前から杜撰(ずさん)なところが多く、深井氏より年配の研究者や同年代の人だけでなく、年下の研究者からも「信用できない」と言われていました。私も含め、そういう人たちは、深井さんを相手にしていなかった。ただ、深井さんは生産的に面白い文章を書く人なので、人気もありました。そのように評価が分かれる中で、著書を発表し、賞を取り、この分野の第一人者となっただけでなく、教育現場の長(東洋英和女学院院長)にも就任されました。そういう状況が進むのは、やはり問題だと思いました。

──今回、『ヴァイマールの聖なる政治的精神』とともに問題になった、雑誌「図書」(岩波書店、15年)に掲載された論考「エルンスト・トレルチの家計簿」についてはどうですか。

先ほどの二人の研究者のうちのお一人から、「トレルチの家計簿についても本当にあるのか」と聞かれました。実はその頃、深井さんの書いたものを私は読んでいなかったので、送ってもらって、同時に調べることにしました。

──どのように調査したのですか。

カール・レーフラーについては、もともと情報源の一次資料を示す「注」がその本の中になくて、本文で説明されているだけでした。そこには、カール・レーフラーは、20世紀初頭にドイツで刊行されていた「ディ・タート」誌にしばしば寄稿しており、1924年に「今日の神学にとってのニーチェ」という論文を書いていると書かれています。その論文が「ディ・タート」誌に掲載されたとははっきり書かれていないのですが、少なくとも「ディ・タート」誌にはしばしば論文を書いているようなので、名古屋大学がマイクロ・フィルムで所蔵している「ディ・タート」誌を全巻取り寄せて確認しました。

その結果、カール・レーフラーという人物はおろか、近い名前の人も見当たりませんでした。さらに、「今日の神学にとってのニーチェ」という論文も、それに類する名前の論文もありませんでした。そこで、「本の中に書いてあることが確認できないので、これは創作としか考えられないのだが、どこに情報源があるのかを教えてもらいたい」と質問状にまとめました。

トレルチの家計簿については、深井さんは2014年2月にミュンヘンのトレルチ資料館に行って、その家計簿を見つけたと書いてあったので、まずトレルチ資料室の管理責任者にメールを送り、深井さんの論考に出てくる資料が資料室にあるか、また、深井さんが資料室に実際に行っているかどうかを聞きました。その結果、そういう資料はなく、深井さんも資料室には来ていないという返事をもらいました。そこで許可を得て、この管理責任者の回答も質問状に載せ、「明らかに事実と食い違っているので、説明してほしい」と書きました。(2に続く)

【こちらもご覧ください】キリスト新聞「研究者の誠実さを問う 深井智朗氏への「公開質問状」書いた小柳敦史氏インタビュー〝学会・出版社の責任は重大

 






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