「めぐみさん死亡」と聞かされた横田夫妻の前で放った言葉 石井妙子『女帝 小池百合子』(文藝春秋)

 

18日に告示された東京都知事選(7月5日投開票)について情勢調査を行った日本経済新聞社によると、現職の小池百合子氏(67)が大きくリードし、元日本弁護士連合会会長の宇都宮健児氏(73)やれいわ新選組代表の山本太郎氏(45)らがそれを追う展開という。毎日新聞では、「東京都知事にふさわしいと思う人」として、小池氏と答えた人が51%、宇都宮氏10%、山本氏8%、小野泰輔氏7%と報じた。またJX通信社の世論調査では、小池知事の支持率は69・7%で、3月から20ポイントも上昇している。

このように再選が確実視されている小池氏だが、選挙のたびに「カイロ大学首席卒業という学歴は嘘(うそ)ではないか」という問題が取り沙汰されてきた。その小池氏の半生を綿密に調べ上げた石井妙子著『女帝 小池百合子』(文藝春秋)は5月28日に発売され、1カ月足らずで20万部を超えるベストセラーとなっている。

この学歴詐称問題については、カイロ時代に小池氏と同居していた女性から著者は膨大な記録を見せてもらい、その証言などに基づき、本書の前半で当時の様子を詳細につづっている。小池氏はその頃、遊びやアルバイトに熱心で、きちんと勉強をしていなかったという。そのため、父親のコネで何とかカイロ大に編入できたものの、落第して卒業はできなかったのが事実というのだ。

今月8日、カイロ大学が学長名で「コイケユリコ氏が、1976年10月にカイロ大学文学部社会学科を卒業したことを証明する。……本声明は、一連の(学歴詐称に関する)言動に対する警告であり、我々はかかる言動を精査し、エジプトの法令に則り、適切な対応を講じることを検討している」と脅しのような声明を出したことを、駐日エジプト大使館が翌9日、なぜかフェイスブックで異例の公表をした。

在日本エジプト大使館のフェイスブックから

これにも裏があり、本書でも触れられているように、エジプト社会は腐敗が多く、またエジプト政府は日本から多額のODA(政府開発援助)を受けているため、日本の権力者である小池氏を利用したいという思惑もそこには見え隠れする。

今回の「選挙公報」にはいつものように「カイロ大学卒業」と明記されているので、この件が本格的に捜査されれば、公職選挙法235条の「虚偽事項公表罪」にあたる可能性も出てくる。

選挙公報から

小池氏とキリスト教の関係はないのか調べるために通読してみたが、経歴の中でただ一つの接点として、ミッション・スクールの関西学院大学社会学部に1971年に入学したことぐらいだった。ただ、そこには数カ月在籍しただけで、エジプトに留学するため、間もなく中退している。必修のキリスト教学の講義やチャペルアワーへの出席はあったかもしれないが、当時は大学紛争の傷痕が生々しい頃で、しかもその頃の小池家は借金に困窮しており、娘を私学に通わせ続けられる余裕はなかったという。

そんな小池氏は帰国後、カイロ大首席卒業の経歴を売りにして、1979年から日本テレビ「竹村健一の世相講談」のアシスタントを務め、88年からテレビ東京「ワールドビジネスサテライト」の初代キャスター、そして92年に日本新党から初当選して政界デビューを果たす。その後は細川護熙(もりひろ)、小沢一郎、小泉純一郎と、その時に勢いのある年上の男性権力者に近づいては取り立ててもらい、やがて落ち目になって利用価値がなくなった人たちを次々に切り捨てていった(ちなみに、父親が同じような生き方をしている)。最近でも、希望の党を自ら立ち上げ、初の女性総理への道が目前に迫った時の「排除」発言に象徴されるように。

2002年の小泉訪朝のおり、「北朝鮮に拉致(らち)された日本人を早期に救出するために行動する議員連盟(拉致議連)」に小池氏も入っており、東京では被害者家族と拉致議連の議員たちが待機していた。そこに「5人生存、8人死亡」という非情な情報がもたらされる。

死亡という知らせを聞かされ、記者会見で横田めぐみさんの父、滋さんはマイクを握ったものの、涙に言葉が詰まってしまった。妻の早紀江さんは気丈にも自分の思いを、夫の分まで訴えた。夫妻の真後ろに立つ黄緑色のジャケットを着た小池の姿は、嫌でも目立った。小池が被害者家族の肩に手を回しつつ、涙を拭う姿が映し出された。

だが、テレビが報じたのはここまでだった。

会見が終わると取材陣も政治家も慌ただしく引き揚げてしまい、部屋には被害者家族と関係者だけが残され、大きな悲しみに包まれていた。するとそこへ、いったんは退出した小池が足音を立てて、慌ただしく駆け込んできた。彼女は大声を上げた。

「私のバッグ。私のバッグがないのよっ」

部屋の片隅にそれを見つけると、横田夫妻もいる部屋で彼女は叫んだ。

「あったー、私のバッグ。拉致されたかと思った」(226~227ページ)

新型コロナ・ウイルス対策の記者会見で連日テレビに登場して、「首相の安倍さんより頑張っている」という印象を持たれた人もいるかもしれないが、電子書籍ならすぐダウンロードして一気に読めるので(上記のようなエピソードや証言が満載されている)、ぜひ読んでから選挙に臨んでほしい。

石井妙子『女帝 小池百合子
2020年5月28日初版発行
文藝春秋
1500円(税別)

 






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