和島香太郎監督と晴佐久昌英神父が対談 日本カトリック映画賞受賞作『梅切らぬバカ』の魅力を語る

映画『梅切らぬバカ』(配給:ハピ ネットファントム・スタジオ)で、第46回日本カトリック映画賞(主催:シグニスジャパン)を受賞した和島香太郎(わじま・こうたろう)監督の授賞式が5月21日、カトリック浅草教会(東京都台東区)で開催された。授賞式の後には、シグニスジャパン顧問司祭の晴佐久昌英神父との対談も行われた。

和島監督は1983年生まれ、山形県出身。京都造形大学芸術学部では、『阿賀に生きる』(1992年日本カトリック映画賞受賞)などで知られるドキュメンタリー映画監督・佐藤真監督氏に師事した。初監督は、2014年に劇場公開された『禁忌』。受賞『梅切らぬバカ』は、約7年ぶりに撮った映画で、脚本も担当している。

和島香太郎監督

映画賞選定にあたっては、「関わるつもりはない」人と「ともだち」になることが、生きづらいこの世界を生きていく「ちから」になり得ることを見事に描き、今の世界に必要なのは血縁でもなく、福祉でもなく、人間が助け合う基本構造としての「ともだち」であることを伝える優れた作品として評価された。

シグニスジャパンの土屋至(つちや・いたる)会長から表彰を受けた和島監督は、次のように受賞の喜びを語った。

「人と人とが会えない状況の中で、この映画をとおして、キャストやスタッフ、宣伝、映画を評価してくれる人、お客さんにも会うことができ、この映画自体に感謝しています。作品を見て、『ともだちって大切だよね』と思ってくださることに今素直に嬉しく思っています」

授賞式後、和島監督と晴佐久神父との対談が行われ、同作品を作ろうと思った経緯が語られた。着想のきっかけは、数年前に編集として関わったドキュメンタリー映画。自閉症の男性の一人暮らしを描いた作品で、福祉サービスの人や親族との交流を記録したものだった。ただ、そこには近隣の視点が記録されていなかった。それは、自閉症を原因とする予測のつかない言動によって近隣とトラブルが繰り返され、その男性と隣人との関係が良好でなかったため、協力することを断られたためだ。

ドキュメンタリー映画は完成したが、和島監督は、男性が地域から孤立していることを忘れることができず、隣人との軋轢(あつれき)について、フィクションでなら表現できるのではないかと思い、企画書を作り、脚本を執筆した。また、監督自身も中学生の時にてんかんを発症しており、社会の偏見に悩んでいた自分の現実と、男性の姿が重なる部分があり、そこに自分の当事者性を見出して、この映画を撮り始めたことも明かされた。

晴佐久神父(=左)と和島監督(=右)

晴佐久神父は、映画の中に出てくる「友達だから」というセリフに胸打たれたことを述べ、「友達だから」で、世界の問題は全て解決するのではないかと心から思えたことを伝えた。他にも、「ありがとう」「お互いさま」「いてくれて幸せだよ」など素朴だけれど、聞いたら温かい気持ちになれる言葉が映画の中にはたくさん散りばめられていると語った。

これに対して和島監督は、次のように話した。

「『ありがとう』は、自閉症の子をシングルマザーで育てた70歳の女性にこの映画の脚本を読んでもらったとき、『ありがとうという言葉がないんですね。息子の忠さんへ、ありがとうという言葉があるといいのに』と言われて、ハッとしました。『ありがとう』って日常の言葉なのに、僕は素直に言えてなかったのかなと。母親役の加賀まりこさんからも『ありがとう』と言いたいと言われ、最後にそのシーンを加えました」

晴佐久神父は、「普段ちゃんと「ありがとう」と言えてない人も、映画を見ると、本当は自分も「ありがとう」と言いたかったことに気づくはず」と述べ、「『ありがとう』を映画の中できちんと言ってくれたことがまさにありがとうです」と力を込めた。

最後に、同作を見た当事者からの感想を紹介し、監督としての思いを伝えた。

「印象的だったのは、自閉症の子を持つお母さんが、自分と同じような悩みを主人公も抱えていて、それは映画の中では解決されないけれども、映画の中で描かれていることで、自分の人生が肯定されているような気になったという感想をくださったことです。具体的に解決できていなくても、『その問題がここにある』と描くことで、救われる気持ちになる人がいるのだと分かり、この映画を作って本当によかったなと思いました。『これは現実とは違うよ』という意見もあるのかもしれませんが、多くの人に温かく受け入れてもらえたことを嬉しく思っています」

 

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