ラマダーン月の断食の目的と効果 サイード佐藤裕一 【宗教リテラシー向上委員会】

イスラームで断食月として知られているラマダーン月(イスラーム暦9月)の初日は、今年の日本では3月12日にあたった。イスラーム暦は月の動きを基準にした太陰暦であり、太陽暦に比べて毎年11日のずれがある。

イスラームの「断食」は厳密に定義すると、「アッラーのために断食を捧げる」という意図をもって、暁の礼拝の開始時間(日本だと日の出の1時間半~2時間ぐらい前)から日没まで、断食を無効とする物事を控えることである。

ムスリムは、なぜラマダーン月に断食するのか。それは「信仰する者たちよ、あなた方以前の者たちにも義務づけられたように、あなた方にも断食が義務づけられた。(それは)あなた方が、敬虔になるようにである」(2:183)というクルアーンの一節にあるように、第一には「敬虔」になるためである。より神を意識し、愛し、畏れ、その教えを守ることができるようになるため、ムスリムは1カ月間の義務の断食を行う。

精密な機械ほど、定期的で綿密なメンテナンスが重要になる。ムスリムにとってのラマダーン月の断食もまた、信仰者としてのメンテナンスのようなものである。1年に一度訪れるこの季節に、ムスリムは心身に付着した汚れを除去し、消耗した部品を取り替え、故障した部分を修理し、さらなるバージョンアップを試みるのである。

特定の国籍や民族の影響が強いモスクでは、提供されるイフタールにもそれが反映されることが多い。これはインドネシア系のモスクのもの。

メンテナンスは大きく分けて、身体的、精神的、社会的分野の三つに分類される。

身体的に見てみると、実際に健康維持や医療にも利用されている通り、節度ある断食にはポジティブな身体的効果があるとされる。

精神的に見てみると、断食モードに入ることによって宗教心も高まる。周囲にムスリムの知り合いがいる方は、普段あまり宗教的には見えなかったムスリムが、この月にはやけに神妙な表情になり、自重気味であることを見出すかもしれない。断食をする際には、そもそもイスラームの教えで定められていることに対する意識的な順守が求められる。

「断食とは単に飲食をやめることではない。(真の)断食とは、くだらない言葉や淫らな物事をやめることなのである」「アッラーは、嘘や偽りの行いをやめない者が、(断食のために)飲み食いをやめないことを必要とはされない」と預言者ムハンマドが言っている通りである。また、断食によって忍耐力や自制心が養われ、飲食の恵みを実感することにより感謝の念が強化され、飲食の恵みを一時的に断たれることにより、貧しい人々への思いやりの念が増すとも言われる。

社会的な側面から見てみると、ラマダーン月は「共食」の機会が飛躍的に増える季節でもある。サフール(断食前の食事)やイフタール(断食明けの食事)には、家族や親戚や友人同士で食卓を囲む機会が増える。断食後の食事への招待も多い。イスラーム諸国ではモスクだけでなく、路上にまでイフタールを無料提供する場が設けられたりもする。そのような場では知らない者同士が談笑しながら食事をともにする光景が見られる。加えて、ラマダーン月は最も施しが活発になる季節でもある。

ラマダーン月はこうして、ムスリムが共同体の一員としての意識を高め、互いの愛情を育む機会も提供しているのだ。

さいーど・さとう・ゆういち 福島県生まれ。イスラーム改宗後、フランス、モーリタニア、サウジアラビアなどでアラビア語・イスラーム留学。サウジアラビア・イマーム大卒。複数のモスクでイマームや信徒の教化活動を行う一方、大学機関などでアラビア語講師も務める。サウジアラビア王国ファハド国王マディーナ・クルアーン印刷局クルアーン邦訳担当。一般社団法人ムスリム世界連盟日本支部文化アドバイザー。

日本のモスクで行われた、あるイフタール(断食明けの食事)プログラムのチラシ

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