【訃報】 袁 天佑(Yuen Tin-Yau)さん(香港メソジスト教会牧師、香港キリスト教協議会元議長)

えん・てんゆう(ユン・ティンヤウ) 7月15日、香港の病院で逝去。71歳。この数年、がんを患い闘病生活をしていたが、7月14日に突発性脳出血で倒れて病院に運ばれ、15日朝8時(現地時間)に家族に看取られながら息を引き取った。

1951年、香港生まれ。1974年、香港大学理学部を卒業後、中学校の教師を1年間務めた後に献身。1978年、香港中文大学崇基学院神学組(現在の神学院)卒業後、38年間にわたり香港メソジスト教会の複数の教会を牧会し、2016年に引退。その間、同教派の会長(2012~15年)、香港キリスト教協議会の議長(2011~15年)を歴任。

2014年に民主化を求める「雨傘運動」の際、袁氏はデモ現場近くの香港堂の主任牧師を務めており、いち早く教会をデモ参加者の避難場所として開放したことで話題を呼んだ。社会問題に対しては中立であるべきだという内外の批判に対し、袁氏は教会員に向けた牧会書簡の中で「私たちが信じている福音は人々を罪悪より救い出す福音です。それは単に個人的罪からの救いだけではなく、他者・社会・制度の罪悪により作り出された抑圧からの救いでもあるのです。ですから、私たちが信じている福音は社会や政治にまで及ばなければなりません。『政治的中立』、これは虚言です。政治的立場がない人などいるでしょうか」と主張していた。

袁氏は2019年の大規模デモ「逃亡犯条例改正反対運動」を経て結成された「香港牧師ネットワーク」の発足と「香港2020福音宣言」の起草にも名を連ねたため、中国政府寄りのメディアからは「香港を乱す輩」と名指しで非難されたが、その後も香港に留まり続け、説教や執筆活動に力を注いでいた。

袁氏の死はキリスト教メディアのみならず、香港の主要紙「明報」でも報じられ、各方面から哀悼・追悼の意が寄せられている。香港メソジスト教会総会は、公式ウェブサイトにおいて袁氏の逝去を次のように報じている。

「袁牧師は2015年、会長としての任期を終えて引退した後も、説教、執筆、同僚や兄弟姉妹への配慮のほか、若い頃の趣味だった写真撮影も再開するなど、精力的に奉仕を続けてこられました。 ここ数年、癌のために様々な治療を受けなければなりませんでしたが、結果は思わしくはありませんでした。それでも袁牧師は、主が最善の計らいをなしてくださることを信じ、前向きに毅然としてこの状況に向き合ってこられました。

袁牧師はその生涯、神に忠実に仕え、私たちに良い模範を示してくださいました。主の御許に帰られた今、悲しみを覚えずにはいられませんが、私たちは袁牧師が今、天の御父の家で神と共にあり、永遠の安息を享受しておられることを確信しています。 主が袁牧師のご夫人をはじめとするご親族の方々、また同労者の牧師たちを慰めてくださいますように」

またフランスのカンヌ映画祭、台湾の金馬映画祭、山形国際ドキュメンタリー映画祭などで高い評価を得て受賞した『時代革命』(2019年の民主化デモを扱ったドキュメンタリー映画)の監督・周冠威(キウィ・チョウ)氏も、自身のフェイスブックで袁氏との出会いに触れながら、哀悼の意を表している。2021年7月、映画『時代革命』が公表された後、それまで周氏を支持していた幾人かの牧師たちが彼と距離を置くようになり、失望や不安、孤独感に襲われていた際、それまで面識のなかった別の複数の牧師が周氏を祈り励ますために連絡をくれたという。周氏は袁氏と初対面だったが、「父親が子どもを愛するような袁牧師の慈愛に、心打たれました。袁牧師が私のために祈り、抱きしめてくれた時、私は思わず泣き崩れてしまいましたが、袁牧師のその抱擁の中に、私は天のアッバ父の愛を感じました」と振り返っている。

【映画】 『時代革命』キウィ・チョウ監督インタビュー 2022年8月15日

袁氏はキリスト新聞社刊の雑誌「Ministry(ミニストリー)」第30号の特集「となりの国のキリスト教★香港/中国編」でも取材に応じ、雨傘運動の現場でデモに参加する市民を支援した当時を振り返っていた。

「私も教会で議論したが、最終的に参加するか否かは個人の考えと結論付けた。私が強調したのは、まずは自ら考え、異なる意見を聞き合って互いに尊重すべきだということ」「若い牧師たちが、信仰と社会や政治との関係を理解させようと熱心に取り組んでいることを嬉しく思う。議論するプラットホームが生まれたことの意義は大きい」

香港の一般メディア(週刊誌)に掲載された袁天佑さんの記事

雨傘運動の現場で当時を振り返る袁天佑さん(いずれも「Ministry」第30号 特集「となりの国のキリスト教★香港/中国編」より)

また日本で『香港の民主化運動と信教の自由』(教文館、2021年、松谷曄介著)が出版された際には、「政治問題に直面する香港教会」と題する一文を寄稿している。

【書評】 『香港の民主化運動と信教の自由』 松谷曄介

(報告=松谷曄介・本紙編集顧問)

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