【映画評】 教会堂の閾 『最高の花婿 ファイナル』『マリウポリ 7日間の記録』

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敬虔なカトリック教徒のヴェルヌイユ夫妻は、愛する娘4人が4人とも異なる宗教・異なる民族の男を結婚相手に選んだことに初め動揺を隠せず、やがて受け入れるが待っていたのはドタバタ異文化衝突の日々だった。フランスで空前のヒットを飛ばした多文化コメディ映画『最高の花婿』のシリーズ3作目が、この4月より日本公開されている。

3人の娘がアラブ、ユダヤ、中国の男と結婚、残る末娘にはどうかカトリック教徒の婿をと願うヴェルヌイユ夫妻のもとに、末娘が連れてきたのはアフリカ系男性だった、と展開する2014年の第1作は、夫妻と婿たちとの風習の違いや感覚のズレをユーモラスに描いた。各々の宗教文化が最も顕著に表れる結婚式を舞台にした第1作から、より日常目線へと転じる2018年の第2作では、フランス在住に困難を覚える婿4人が母国移住を考え始め、娘4人を遠くへやりたくない主人公夫妻があの手この手で翻意を促す。描写の逐一が笑わせる一方で、婿たちが家族を連れた帰郷を考える背景として、移民排斥の動きが強まるフランス社会右傾化の流れも端的に示される。

つづく今回の最新作では、婿たちの父母が暮らす各国から、ヴェルヌイユ夫妻の住まうフランス古城の町シノンへと集う。末娘の婿であるコートジボワール人青年の両親はすでに第1作から登場し、互いに保守的な主人公夫妻との価値観のギャップが鮮やかな印象を残したが、対して最新作で初登場する中国/アルジェリア/イスラエルの夫妻もみな一歩も引かず、各々に強烈なキャラクター性を発揮して飽きさせない。

末娘の婿は売れない舞台俳優で、大舞台でのキリスト役を手に入れる。しかし周囲の多くは黒人の彼がキリストを演じることへの違和感を隠そうとしない。次女の夫であるユダヤ人婿との、「キリストはユダヤ人だろ」「でもキリストはアフリカ系だ」という会話は、意味内容として矛盾しないのに対立点を幻視してしまう異文化摩擦の困難をよく象徴する。そのユダヤ人婿が、自宅を接する長女のアラブ人婿と敷地境界の植え込みをめぐり争いとなり、壁をたて始める場面は辛辣だ。ここでイスラエル/パレスチナの分離壁が腐されるのは言わずもがなだが、諷刺の深刻さにも関わらず笑ってしまう巧さがある。

末娘の結婚を描く第1作で終盤の舞台がカトリック教会となるのは自然として、家族外にも関わらず第2作や最新作にも通して顔を出す唯一の登場人物に、カトリック司祭の中年男性がいる。多宗教のるつぼと化した主人公家庭の騒擾を呆れつつも楽しむような彼の存在は、ドタバタに明け暮れる物語に慎ましやかな定点をもたらしてもいる。それは変化の激しい今日の社会においてなお人々の心の拠り所となり得る、教会をはじめ広く寺社仏閣を含む宗教施設の現代的意義を表すようでもあるが、このことをより端的に描くのがドキュメンタリー作品『マリウポリ 7日間の記録』だ。

ウクライナ戦争の現実を撮る映画『マリウポリ 7日間の記録』は、避難先の教会堂で、あるいは廃墟化した街角で、淡々と今できることをして生き延びる人々の姿をカメラに捉え続ける。砲撃で家々は破壊され、間近までロシア軍が迫るなかでも、人間がそこに生きる限り暮らしの営みはどうにか継続される。この際に人々がよすがとするのは攻撃を免れた教会堂であり、教会の食堂へ寝具を持ち込み食糧を分配し、扉を補修し住人の去った家や、ときに住人の殺された家で遺体を押しのけ物資を収集する。物と情報にあふれた現代の都市生活において日陰の位置へ退けられがちな宗教施設が、戦火の下で地域コミュニティの核として再浮上する光景はどうにも皮肉だ。

本編中でリトアニア人監督マンタス・クヴェダラヴィチウスは、7日目に落命する。その死は唐突に宣告される。本作は残された助監督である妻を中心に完成、公開へと漕ぎ着けられた。将来を嘱望されたリトアニア人監督が早すぎる死と引き換えに残した、散乱する死体を脇目になお営まれる“日常”の強度と静けさとに震撼する。喜劇と悲劇の、そして日常の舞台となり続ける教会が、いまこの瞬間にも世界中でただ寡黙に事態を見つめ、人々の祈りへ耳を傾けつづけているということ。概念としての平和より先に、心の平安をもたらす場としていまそこにあるということの恵みを想う。たとえ災いに取り囲まれた、一瞬の時であるとしても。

(ライター 藤本徹)

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『最高の花婿 ファイナル』“Qu’est-ce qu’on a tous fait au Bon Dieu ?”
公式サイト:http://www.cetera.co.jp/hanamukofinal/
2023年4月8日(土)より 新宿K’s cinema ほか全国順次公開中

『マリウポリ 7日間の記録』“Mariupolis 2”
公式サイト:https://www.odessa-e.co.jp/mariupoli7days/
2023年4月15日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開中

【関連過去記事】

【映画評】 『最高の花婿』 異宗教間の国際結婚をコメディで 2016年3月12日

【映画評】 ルーシの呼び声(1)『ひまわり』『親愛なる同志たちへ』『金の糸』『潜水艦クルスクの生存者たち』 2022年4月16日

【映画評】 ルーシの呼び声(2)『チェルノブイリ1986』『インフル病みのペトロフ家』『ヘイ!ティーチャーズ!』『ドンバス』ほか 2022年5月20日

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【本稿筆者による言及作品関連ツイート】

 






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